第114話 大剣をとばされる初体験
カタリーナが体にまとっていた炎が消え、ツンとした乳首とアンダーヘアが丸見えになった。
「きゃあ!」
そう言ってカタリーナはしゃがみ込む。放出されていた威圧感は消えていた。
危機は去ったものの、もの凄い罪悪感が俺を襲う。いや、まあ、こっちは命がけだったから仕方ないんだろうけど、何十人もの人に裸身を晒したら相当辛い。会社の慰安旅行の余興で強要された裸踊りの支度をして入った部屋が見知らぬ人の宴会場だったときは心が灰になった。ましてや相手は一応女の子である。
反省する俺の心を凍らせる怒鳴り声が聞こえた。
「山田。てめー何しやがる」
見ると果音も全身が濡れていた。あちゃあ。どうやら慌てていたせいで呪文の対象の制御に失敗したらしい。
油断なくゾンデルスの方を見据えながら果音は杖を構えなおした。幸いなことに今日の果音は伸縮性の高い生地で、両肘・両ひざが出ている服装だ。これで長い服を着ていたら動きが制約されて大変なことになっていたかもしれない。なんといってもスピードで戦うタイプだ。
「我が剣をそのような貧弱な武器で迎え撃とうとは笑止。哀れだが死ねい!」
巨躯に似合わぬ速い剣裁きでゾンデルスは果音に迫る。今まではカタリーナに苦戦する俺達を気にして適当に逃げ回っていたらしい果音が初めて迎え撃つ。ぎゃん。鈍い金属音を発して杖が大剣をはじく。
「馬鹿な。魔法強化された上質な剣すら砕くというのに、その辺の村でも売っている安物の杖がっ!」
ゾンデルスは大声を発しながら大剣を振り回すが果音の杖にことごとく阻まれていた。ゾンデルスの周囲には砕けた剣や槍などが散らばり何人かの兵士が倒れている。
激しく動くので体が熱いのだろう、全身から湯気を立ち上らせながら果音は杖で大剣を払い、打ち合う。
「知らなかったのかい? 杖はつえーんだよ」
果音が叫ぶのに合わせて俺もつぶやく。杖はつええ。
激しく杖を撃ち込まれ防戦に回りながらもゾンデルスは余裕を失わない。
「わはは。まさか安物の杖を魔法強化してあるとは驚きだが、私を倒すことは叶わん。我が鎧は女の股から生まれた者には破ることができないんだからな。いずれ疲れた所を倒してやる」
なんだよ、その卑怯なチートアイテムは。
「ねえ。ヤマダ。私が加勢に行こうか? 私なら条件に当てはまらないかもよ。その間はサーティスに護ってもらうけど」
シュトレーセが聞いてくる。そうか。こっちにはシュトレーセがいたんだ。
絶対に俺から離れないで守ってくれと果音から頼まれていたシュトレーセは俺の許可によって果音の頼みを上書きするつもりらしい。まだ敵にどのような奥の手があるのか分からないので俺の守りの任務を放棄するのはためらわれるのだろう。カタリーナを見るとその辺に倒れていた誰かの服をはぎ取って身に着けているところだった。
口で何かをブツブツと呟いている。
「殺す。絶対に殺す。私を辱めたアイツだけは絶対に殺す」
サーティスが横で言った。どうやら唇を読んでいるようだ。
「うーん。困ったな。ねえ、ヤマダ、どうしよう?」
俺らの心配をよそに果音の杖はゾンデルスの鎧の腕の部分に当たりヒビを入れた。
「馬鹿なっ。そんな、そんなっ」
初めて狼狽えた声を出すゾンデルス。
果音はゾンデルスの鎧に容赦なく攻撃を加える。肩や脚の部分にヒビが入り、いくつかのパーツが脱落する。兜の面頬部分が落ちて厳つい顔立ちが晒された。焦燥が見て取れる。壊れないはずの鎧が傷つき焦って受け損ねたのか、ゾンデルスの大剣が弾き飛ばされて離れた地面に突き立つ。
「この私が剣を失うなど……」
うめくゾンデルスの胴を大きく地面を踏み込んで伸ばした果音の杖が打つ。ピシリと蜘蛛の巣のようなヒビを胸一面に発生させながら、ゾンデルスは後ろに倒れ込んだ。
追い打ちをかけようとする果音に向かって火の玉が飛ぶ。大きく後ろに跳び退って果音は新たな敵に対して身構えた。カトリーナがその視線を受け止める。まだ、通常の魔法なら使えるらしい。その隙に大剣を回収しようとするゾンデルスにサーティスが矢を放つが甲高い金属音と共に弾かれてしまう。
「僕の武器が通じないとは……」
悔しそうなサーティス。
「これではヤマザキさんと僕の差が増々開いてしまう。ヤマダさんにかっこいいところを見せなくては。でも、どうしてヤマザキさんは傷をつけることができるんでしょうか?」
こちらを凄い視線で睨みつけるカトリーナの腕をつかんで距離を取ろうとするゾンデルス。それを見た果音は見きりをつけて俺達の側に戻ってきた。
「果音、お疲れさん。どうしてゾンデルスの鎧を壊せたんだ?」
「アタシは難産でさ。帝王切開で生まれてんだ」
なるほど。現代医学に敗れたわけか。
「なんか嫌な予感がしたんで戻って来たんだ。まだ何かあるぜ」
果音の言葉が終わるか終わらないかのうちに巨大なドラゴンがふわりと着地する。その首には一人の男が跨っていた。
「ははは。踏みつぶしてやろうと思ったがいいカンをしているじゃないか」
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