第78話 ブラシかけ終わったら、ブラしてない(R15)

 スラリと伸びた四肢、愛くるしい顔。そこには一糸まとわぬ美猫がいた。見事な黒猫の頭の一部の毛だけが金色だ。

「や、山崎?」

「にゃー」


 猫は一声鳴くと俺の側に駆け寄ってきた。そして、台の上のブラシを熱心に眺める。俺がブラシを手に取るとベッドの上に横になった。おずおずと前脚からブラッシングを始める。猫はにゃああん、と鳴くと力なく横たわった。場所を変えて毛を梳かしていくうちにどんどん体が伸びていく。


 猫は液体なんていうけれど、この姿を見れば納得だ。でろーんとのべのべ横たわる猫。目蓋は半分閉じかかり惚けた表情を浮かべている。俺が仕上げとして最後に残った後脚にブラシを当てているときに、異変が起こり始めた。艶々とした毛がどんどん薄くなっていく。俺は手を止めた。


 みるみるうちに目の前の猫の姿はなくなり、そこには全裸の果音が横たわっている。今まで目にすることが無かった部分の白さが目に焼き付く。俺はすぐに天井へ視線をずらした。心臓が早鐘のようにドクンドクンと打っているのを感じる。ごくりと唾を飲み込んだ。その音にビクリとしてしまう。


 どうやら、クァリロン女王からもらった変化の杖の効果時間が経過したらしい。あと1回分しかないからと言っていたその1回を猫に変身するのに使ってしまったようだ。おいおい、貴重な魔法の品なのにこんなことに使っていいのか? とりあえず天井を見上げたままベッドの頭の方に移動する。


 俺は目の端でベッドの上の惨状を確認する。このアングルなら大の字に寝ていても大事な部分は見えない。まあ、形のいいヒップは丸見えなわけだが。ヘッドボード近くに畳んであった毛布を取るとなるべくそうっと果音の体を覆ってやる。果音はピクリとしたが目を覚まさなかった。


 ふう。あぶねえ。もし目を覚ましたら殺される。毛布に包まれたが、目の網膜に焼き付いた形良いヒップのことが忘れられない。体の一部分だけが物凄く元気だった。こりゃ参ったね。あの巨乳メイドたちを見たときも反応したけど。可愛かったなあ。でも、果音の方が100倍いい。


 うっとりするほど乱暴な口のきき方、竹を割ったような真っすぐな性格、媚びることのない凛とした佇まい。それでも時折、ほんのちょっとだけ見せる笑顔はかーわいいんだよなあ。ふう。なんとか落ち着いてきた。なんだかんだで疲れたし寝よ寝よ。


 俺がベッドを離れようとすると俺の着ている服の裾を何かが掴んだ。振り返ると果音の手が裾を握りしめている。やべ、ぶん殴られるかも。毛布がずれて艶やかな肩から鎖骨のラインが見えていた。そして、その先の膨らみの一部も。果音は目を閉じたままだ。折角鎮めたはずの場所が再び元気になってくる。まずい。


 俺は裾を引きはがそうとするががっちりと握られていた。途方に暮れていると果音が息をふうっと吐き出す。

「なあ、山田。お前のその態度は立派だと思うけど、残酷なことでもあるんだぜ」

 果音が目を開ける。まっすぐに俺を見つめた。


「まあ、しょうがねえか。山田だもんな」

 俺は口をパクパクさせることしかできない。

「山田。ランプを消してくれ」

 そう言って、果音は握りしめていた裾を放す。


 俺は出来損ないのロボットのようにぎくしゃくと動きながら、2つのランプを消した。カーテンの隙間から漏れる月明かりの中で、ベッドに横たわる果音の姿がぼんやりと浮かび上がる。確たる考えも無しにベッドの側に戻ると伸びてきた力強い手が俺の手を掴んで引き寄せた。


 すぐ近くに果音の顔がある。熱い吐息が漏れて俺の頬を撫でた。頭の中が真っ白になって何も考えられない。無我夢中で果音の唇に自らの唇を重ねた。ごく僅かに触れるだけのキスだったが、頭の後ろに果音の手が回されぐいと力が込められる。


 すぐに俺の唇を割って力強い舌がねじ込まれた。熱い舌は俺の歯と舌を求めてうごめく。されるがままなのが悔しくて俺が舌を伸ばすと甘噛みされて吸われた。がっちりと頭をホールドされて密着し息を吸うこともできない。息苦しくなったところで力が弱まりやっと俺は解放された。


 と思ったら、貫頭衣をはぎ取られ、ぎゅっと抱きしめられる。俺の体に熱く尖った突起が押し付けられ果音は甘い声を出す。

「ああ。山田……」

「や、山崎……」


「今だけは果音と呼んでいいぞ」

「……果音……」

 果音は手を伸ばして枕元に置いてあったタオルを取り、もどかしげにベッドの上に広げる。俺を抱きかかえたままその上にごろりと転がった。


 見上げる形になった果音が俺を抱き寄せて、耳元にささやく。

「アタシの準備はもうできてるから」

 俺は強張った物のせいで脱ぎにくい下着を蹴るようにして脱ぐ。脚を広げた果音の上に覆いかぶさった。


 うまくいかなかったが、何度目かでやっと正しい位置を探り当て、ゆっくりと体重を預けていく。果音がうめき声を漏らした。

「ごめん。果音。大丈夫?」

「大丈夫に、決まってん、だろ」


 果音は柔らかな微笑みを浮かべ、それからニッと笑った。

「それよりも山田の方こそ覚悟しろよ」

 ごろんと体の上下を入れ替えられる。そして、鍛えに鍛えぬいた体を激しく動かし始めた。


 

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