怪力

「……ドワーフ?」


「まさか、ドワーフを知らないんですか?」


 もちろん、アニメを観たりゲームだってする直己はドワーフくらい知っていた。


 ……ただし、物語に出てくる架空の亜人種族としてだ。


「いや、知ってますけど……。鍛冶とかが得意で、力持ちの小人族ですよね?」


「知ってるんじゃないですか!? なら子供扱いしないで下さい! 人間様と言えども、私の方が一つお姉さんなんですからねっ!」


 少女は再び、プクリとその柔らかそうな頬を膨らませる。


 そんな様子を眺め、「……この子、ガチで痛い子なのかも知れないな」と徐々に思い始める直己。


 それを少女は目ざとく見抜く。


「……信じてませんね?」


(バレてる……)


 気まずさから直己は、視線を少女から外した。


 すると次の瞬間、彼の体を謎の浮遊感が突如襲う。


 ふわり。


「えっ!?」


(急に体が浮いた!? なんで!? ってかあれ!? 女の子が消えた!?)


 何が起こったのか理解出来ず、困惑する直己に少女がこう語りかけた。


「これで信じましたか?」


「……あっ」


 自身の真下から聞こえたその声に、ようやく状況を理解した直己が頷く。


「……うっすらと」


「なんですかうっすらとって。ガッツリと信じて下さいよ!」


 そう不満を口にしながら、少女は直己をベッドに降ろした。


 信じられないことにこの小さくて華奢な少女は身長が百七十五センチ、体重が五十五キロはある直己の体を簡単な荷物でも持つかのように、軽々と自身の頭上にまで持ち上げてしまっていたのだ。


(こんなこと、確かに普通の人間の小さな女の子には出来ないよな……)


 少女は未だ戸惑っている彼に、その愛らしい顔を近付ける。


「うっ」


(顔近っ!?)


 直己は自身の顔が赤くなっていくことに気付いた。


 少女はそんな様子もお構いなしに続ける。


「それにほら、私の目の下の痣! 見て下さい! これがドワーフである証拠ですよ!」


 見れば彼女の両目の下には逆三角形の、小さな白っぽい色をしたタトゥーのような痣があった。


 しかし、どうしてそれがドワーフであることの証明になるのかが直己にはわからない。


(……それがなんなんだろう。タトゥーでもいれたんじゃないのか?)


「あ、ああ、そうなんだ」


 戸惑いながら、そう返事するしかない直己であったが、先程の謎の怪力のこともある。


(だけどさっきの力……。彼女の言っていることは本当に本当なのか? ってことはここって、ファンタジーの世界? ……いや、なら日本語が通じるのはやっぱりおかしい。きっと僕をからかっているんだ)


 そう結論を出し、彼はこう質問した。


「……あの、異世界人ならどうして日本語を喋ってるんですか?」


「え? 異世界人? ニホンゴ? どこかの国の言葉ですか?」

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