第6話 捜索

 夜目がきくとはいえ、やはり昼間よりも視界は悪い。したがって、どうしても嗅覚に頼らざるを得ないところがある。だが、先ほどから鼻腔をくすぐるのは、ほのかにただようキンモクセイの香り。いつもならこの甘い香りにうっとりするのだが、あいにく今はそんな余裕はない。


 嗅覚に頼るのを諦めたキツネは、切り株周辺の地面を注意深く見て回ることにした。


 しばらく探し回ると、とある小さな足跡を見つけた。それは、自分やリスの足跡とはまったく違うもの。だが、明らかに小動物のものと断定できるほどの大きさだった。


 キツネは、見失わないように注意しながら足跡を辿っていく。それは、森の奥へと続いていた。


 しばらく進むと周囲の闇は濃さを増し、木々や地面との境界線も曖昧になっていく。


 キンモクセイの香りは次第に薄くなっているが、鼻についた香りまではすぐには消えない。嗅覚もあてにはできなかった。


 集中力が切れてしまったキツネは、ため息をついてその場にへたりこんでしまった。


「あ~あ、もう見つからないのかな?」


 そうつぶやいて虚空を見上げる。


 そこへ、一羽のフクロウがやって来た。


「ホーウ、どうしたんだね? ため息なんかついて。いつもの元気な君らしくないじゃないか?」


 キツネはフクロウに、大切なハンカチがなくなってしまったこと、それが誰かに盗まれてしまったかもしれないことを告げた。


「足跡辿って来たんだけど、さすがにこれ以上は無理かなって……」


 鼻もきかないし、と肩をすくめる。


「なるほど。そういうことなら、ここから先は私が捜すとしよう」


「えっ!? いいの?」


「もちろんだとも」


 フクロウはにこやかにそう言って、地面をよく観察する。あの小さな足跡を確認しているのだろう。


 しばらくして、フクロウは顔を上げキツネに向き直ると、


「君の大切なものを持って行った犯人がわかったよ」


 自信ありげにそう告げた。


「本当っ!?」


「ああ。今から連れて来るから、君はここで待っていてくれ」


 そう言って、フクロウはどこかへと飛び去った。

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