ことのはあつめ
瀬戸晩霞
第1話
【さくらひとひら】
ゆうやみに、桜ひとひら、淡く揺れ
鏡面の花、あかくそまりき
その様は、生きるか死ぬか、瀬戸際で
頸にひとつの、鎖を掛ける
揺れた銀、その冷たさは、ありありと
絶える躰の、熱さを教え
宵闇に、桜ひとひら、おちてゆく
鏡面の花、薄く透け行く
その様は、蝋人形を、彩った
氷のような、蛻の殻を
桜の木、魔性の花は今日もまた
ひとをいざない、そのちをすする。
【こぼれうめ】
溢れたまろい梅の花、その様のなんと艶かしきや
氷の内でも靭く咲く、花弁が脆くも崩れるは、強い女を姦するような、身の内を灼く悦楽思ゆ
じわりと滲む、妖艶な香気
水溜りに浮く、真白な名残
それらは実に、美しき官能
【処女懐胎】
ひとしずく、毀れた青は嘲笑う
貴方に、私は触れられないわ、と
白き髪の処女は云う
私は、貴方にこの身を捧ぐと
清廉な、清浄な、清楚な乙女はかく語りき
ついと伸ばした銀の腕、その指先から溢れ出た、じわりと滲む縹の血
その色は、艶に笑う青を突き、じわりとその身に赤を孕んだ
一人部屋、彼女は咲う、柔らかに
主人を抱く聖母のように
すべてすべて、貴方の子ですわ
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