いのり

 深海の花と真珠とオルゴール

 艶やかな色と透きとおる風

 すべて手に入れたつもりの

 遠くをみているねずみの目


 半壊のからくり時計の小人たち

 狂った音で響く円舞曲

 きれいなものはこわいもの

 無垢なひとみにおそれふるえる


 失った全てのものにカーテシー

 羽のドレスの裾をつまんで



   *



 純粋さは、傷つきやすさだ。幼い頃は、日々小さなことでずたずたになっていた。

 「ポケモン言えるかな?」という、百を超えるキャラクターの名前が歌詞になった曲があった。そらで歌えることが誇らしかった一年生のわたしは、なにかの集まりで行ったカラオケで、それをおねえさんに披露した。顔を覗き込み、目を見つめて一匹ずつ名前を唱え、間奏はそのすごさをアピールした。このつぎ、すっごい、はやいから、ちゃんときいててね、まちがってるかもしれないよ。

 速いところも完璧に歌いあげたわたしを見て、おねえさんはとても驚いてくれたのに。

「ほら、そんなへんな歌いかたして。おねえさん困ってるでしょ」

 そう言ったおかあさんの言葉に、おねえさんは笑うだけで、否定も肯定もしなかった。

 合わせてくれてたんだ。

 一瞬にして数十秒前までの得意げな自分が恥ずかしくなり、ラストスパートに入ったふざけた曲が遠ざかって聞こえた。愚かなアピールが何度も頭の中で再生される。このつぎ、すっごい、はやいから。

 ずたずたになり、心と行動は必ずしも同じではないと知ったわたしは、少し強くなった代わりに少しの透明さを失ったんだと思う。

 傷つきにくいほうが、きっと生きやすい。だけど、疑わず信じるまっすぐな瞳と引き換えであるのなら、傷つきながら生きるのはとても美しいことなのだ。

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