春の空へ
おばあちゃんがくれたクリスタルは
たんぽぽをとじこめていた
空にとんでく瞬間の綿毛たち
花言葉がぼくの気持ちですと
かつておじいちゃんが贈ったんだって
「真心の愛」
おばあちゃんは照れて笑った
「別離」の花言葉までなぞるなんて
そう言って泣いたおばあちゃんも今
綿毛といっしょに、空に
*
二人のおばあちゃんがいなかったら、すずめという筆名はつけなかった。くにたちのおばあちゃんと、はちおうじのおばあちゃん。わたしは二人が大好きだった。
いろんなことがあって、今ではくにたちのおばあちゃんの連絡先も、生死もわからない。本がたくさんあるおうちで、次に読み聞かせてもらう本を選ぶ時間がいちばんの幸せだった。わたしの中の本の虫は、その部屋ですくすく育ったにちがいない。
「こすずめのぼうけん」という絵本が大好きだった。飛ぶことを覚えた子すずめが迷子になって、休めるところを探すおはなし。お気に入りのフレーズを繰り返し口にした。
はちおうじのおばあちゃんは、おじいちゃんが亡くなってすぐ、認知症になった。わたしが誰だかたぶんわかってないけれど、それでも名乗るとにこにこ笑ってくれる。
妹が生まれるときや、熱を出して保育園を休むときには、よくはちおうじに預けられた。おばあちゃんの家は自分の家よりも広くて、たくさん物があって、ちっとも飽きなかった。大好きだったのは、鳥の楊枝入れ。頭をぐっと押すと、楊枝の入った小さな引き出しが開き、くちばしに一本くわえる。たくさん楊枝を出してしかられた。どうしてか、小さなわたしは、あの鳥をすずめだと思っていた。
すずめはかわいくて、たくましい。ちょうど、二人のおばあちゃんみたいに。わたしもいつか、すずめのようになりたい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます