47話 盗賊退治へ

「ついに最後のステップですね」


「下っ端でレベル20だったしな、首領は30とかいってるんじゃないか?」


「可能性は十分ありそうだ、ま、レベルが高かろうが低かろうが油断は出来ない事に変わりはないさ」


 カオリを含めた俺たちは夜に俺たちの部屋に集まりどう行動するかを相談していた。

 適当に買ってきた菓子をつまみつつそれぞれ案を出す、それぞれ方向性が微妙に違っていてまとまるかどうかは微妙なラインといったところか。


「出来る限りこっちから援護してやるべきじゃないか?」


「いえ、本当に危険になるその時まで見守った方がいいのではないでしょうか」


 サラは安全に、という方向に対してカオリは危ない事でもあえてやらせるといった方向性だ。


「「エリス(さん)!!」」


「あー、あえて言うならカオリの方に賛成だ、だからと言って多数決で決めるってのもどうかと思う。というかまずお互いにそう思う理由の説明をしたらどうだ?」


 2人とも方向性をぶつけ合う事はするが物事には説明が必要だろう、そこをすっ飛ばしたらただの口での殴り合いと変わらないものだ。


 まずサラの方だが、いくら教えるとは言ってもその教える段階で死ぬような事があってはいけないというものだ、確かに危機に陥るような状況というのはそのまま命を落としてもおかしくはない。


 それに対してカオリだが、一度死にかけでもしないと人は覚えられないというものだ、痛みというのは口では説明できるものではない、自分がどういう道を歩んでいるのか実際に体験させて、それでも歩む覚悟があるかどうかも試験した方がいいという意見だ。


 お互いケイトの事を思ってのものだ、サラの言う方法にすればケイトは無事に依頼を達成し、連携を身に着ける事ができると思われる。

 そしてカオリの方法であればもしかしたらここで潰れてしまうかもしれない、しかし乗り越えられれば困難に立ち向かう事も、いざという時に撤退するという事も身に着けられるだろう。


「ちょっとキツい言い方にはなるが、もしも苦しい事があって潰れてしまうならこの先長くもないんじゃないか? それに俺たちの感覚で教えるよりこの世界で慣れているカオリの意見の方を推したいっていう面もある」


「仕方ねえな、でもヤバいと思ったら俺はすぐ動くぞ?」


「ええ、止めても動くんでしょう?」


「当たり前だ、守ってやるのもヒーローとして大事な事だろ?」


「ケイトだってヒロインの卵だって事は忘れんなよ?」


 今回俺たちは主人公というよりは脇役なのだ、あくまで主役はケイトであり俺たちは彼女を一人前にするというのが目的である。

 俺たちはそれぞれ部屋へと戻り翌日へと備える事とした。


 そして翌日、ケイトの元気な一声で早速盗賊退治の依頼を受ける事となった。


「頑張りますよ!!」


「応援してるよ!」


「無茶だけはするんじゃないぞ?」


「落ち着いて戦うんですよ?」


 この盗賊退治の依頼だが報酬金額が上がっている、被害が拡大したのか、それとも単に誰も受けなさすぎて金額が増加したのかは分からない。

 依頼主はこの街の自警団のようだ。


「では早速行きましょう!」


「情報収集はいいのか?」


「します!」


 大きな依頼での情報収集は基本だ、ギルドからの依頼であれば正直なところ殆ど情報がそろっている為にこれをする必要は無いだろうがフリーランサー向けの依頼となるとそうでもない、不足している情報を自分でかき集める必要がある事が多い。


「よし、じゃあまず最初に行くのは?」


「自警団さん達の建物です!」


「よーし、それじゃ行くぞ!」


「はい!」


 この依頼は盗賊の退治とあるが主目標が何なのかは明記されていない、曖昧な状態で依頼に挑むのはあまり良い手とは言えない。

 自警団の建物はそれなりに立派なもので中に入ると何人かの屈強な男たちがこちらへと視線を飛ばしてきた。


「みなさんレベル15のようですね……あちらの方は20? あの人が団長さんでしょうか」


「ま、一先ず聞いてみるのが一番さ」


「そうですね!」


 自警団、この街での警察のようなものだ。

 受付へと話を通すと少し不思議そうな顔をされつつも奥の部屋へと通された。


「君たちが依頼を受けてくれたのかね」


「は、はい」


 どうやら団長はレベル20ではなく30のようだ、通された部屋に座っていたのは色黒のこれまたマッチョマンだ、ヴァルディアのギルドマスターと言い自警団長と言い筋肉が全てなのだろうか。


「見たところまだ子供じゃないか、イタズラで受けたというわけではないだろうな?」


「レベル20では不満でしょうか?」


「一応補足しておくと彼女以外の俺らは31だ、それでも不満か?」


「31!?」


 俺達の見た目はまだまだ新米だ、特にケイトに関しては完全に子供の見た目の為に信用されないというのは分かる、しかしある程度力のある立場なのだからある程度見破るくらいはしてくれてもいいんじゃないだろうか。


「しかしこんな若い衆を向かわせるのは……」


「何か問題でもあるのですか?」


「あぁ、その盗賊団の長なんだがこの自警団の元団長なんだ」


「はぁ?」


 思わず変な声を出してしまった、末端が離反して云々であれば聞いたことがある。

 しかし今回はここのトップだった者が道を踏み外してしまったようで、想定されるレベルは低くても30、場合によっては35や40である可能性だってあるのだそうだ。


 名はリカルドといい、金にがめつい性格で汚職、暴力沙汰は少ない物では無かったのだそうだ。

 そんな彼でも昔はやや攻撃的な性格ではあったものの比較的まともで、欠点こそあれどそれを補えるだけのリーダーシップを発揮できるような人だったらしい。


「敵は彼の支持者、汚職仲間ってところだ」


「依頼の主目標はそのリカルドってのを倒すか連行するってところか?」


「あぁ、それで頼む」


 どうやら思っていた以上に厄介な依頼なようだ、ケイトの卒業試験にはやや荷が重いかもしれない。

 ただ、だからと言ってやめるという事もない、最悪ボスは俺たちが引き受ければいいのだ。


「ケイト、大丈夫か?」


「やりますよ!」


「そういうわけだ、俺たちに任せてくれ」


 ここでの情報では敵の本拠地の地図などは手に入らず、主目標が明らかになったくらいだ。

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