理解しあう信頼

「ああ、これはただのゴーレムですよ。皆さんもご覧になったでしょう、あの巨大な建物の数々を建てた古代の人々の、我々の知る科学とはまったく異なる科学体系を再現し、それを使って作った人造人間です。……あなた方をとって食いはしませんからご安心ください」

 着陸したタエ、タタ、メゾンはその“ゴーレム”の光る双眼に全身をくまなく見られ、周囲を包囲されじっとしているようジェスチャーを受けた。待っていると、陽気な黒い肌の青年が遠くから馬に乗ってやってきて、今に至る。

「はぁ……」

「わかるようなわからんような、だ」

 タエとメゾンは人間の姿に戻っており、タエは青年の馬に、メゾンは青年の連れてきた女性の馬に乗っている。タタは必要な処置を受けて一足早く搬送されていた。

「で、あなた方は何なんです」

 黒い肌にもかかわらず人権が認められているような青年に、思わず問いが漏れてしまう。女性は白い肌で、青年は黒い肌、そんなことは普通はありえないのだ。

「抑圧されているべき“黒肌”が主体の区、というのが珍しいのでしょうから質問されるのもいいですけど、これに関してはこちらからもお聞きしたい。あなた方は何者ですか? 我々の科学で張った結界バリアがあなた方に敵意を見出ださなかったから領土侵入を許しましたけど、あなた方はあなた方でなかなか奇妙ですよ」

 メゾンとタエは互いの姿を見ては、確かに、と苦笑した。

「あなた方もゴーレムみたいな人造人間なんです? それとも自律式のからくり?」

「いや、そのどちらとも違う」

 メゾンが問いを受ける。

「第一に、我々は黒肌の民の元戦闘員だ。特殊な技術を用いてメストス階級の監視網を掻い潜り戦場から逃げ、抵抗組織レジスタンスを結成した。この度メゾン区に奇襲をかけようとしたのだが、途上サターニャ区からの予想外の攻撃を受け、作成変更を余儀なくされた」

「あなた方が、人間……?」

 青年は信じられないものを見るようにメゾンに顔を向ける。

「ええ、我々は人間ですよ。この体は肉体改造で得たものです。我々が戦場で使っていた戦闘機と我々の肉体を融合させ、炭素を新元素に置換した」

「……よくわかりませんが、あなた方にはあなた方の科学があるのですね」

 無理矢理自身の裡から沸き上がる恐怖や疑念を飲み込んだ、という風に青年はぎこちなく笑った。結界バリアの判断を信じるということだろうか。それならば青年たちは、彼らの科学に信頼を置いているということだ。――その信頼に、メゾンは賭けてみようと考えた。

「ところでここには通信技術はありますか? メストス階級に傍受されない通信をしたい」

「ここでは自由にテレパシーを送りあえますよ」

 ……特殊な技術を用いなくてもいいということか、とメゾンは訊ねる。

「ええ。古代の技術はメストス階級には読み解くことはできないようです。大量のバグを使わなくてもここからの通信は他区には解読できません。どれだけ遠くにいる同胞とも、すぐ繋がれますよ」

「貴殿の言葉を信じよう」

 メゾンはすぐに、海の向こうのアジトへと、一時的にファスト亜区に避難したこと、タタが治療を受けていること、ファスト亜区の人間は信頼できそうだと伝えた。

 アジトの伝令部からは、思わぬ行動に戸惑う声、謎多き区の実態に関心を示す声、作戦変更を了承する声などが雑多に聞こえてきた。総じて、全員が無事であることを安堵する雰囲気である。

 一方青年も、メゾンがレジスタンス組織内で相応の信頼を得ていることを話の内容から察しつつあった。

「メゾン区への強襲、我々にも協力させてください」

 黒肌の民がメストス階級と同格に扱われる区のなかでただ甘やかされてきたわけではなさそうな、青年の強い意志が感じられた。

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