家元
昼休憩中に、朝の会話で出た隣のクラスに居るという、三味線の家元の男子を見に行く。
「……………………」
隣のクラスは完全にアウェイ。
教室を覗いている私たちに対する、このクラスの生徒たちの視線が痛い。
「そもそも、別の所で食べている可能性もあるのに」と考えている私の耳に、サキの「居た! 居たよ!」という言葉が届いた。
「どこ?」
サキが指をさす先に、一人の男子生徒が居た。
その男子生徒は食事をすでに済ませたのか、イヤホンをして窓の外を見て物思いにふけっているようだった。
三味線の家元というのだからもっと儚げな存在をイメージしていたけど、その男子生徒の体格は細身ながら良く、髪も艶があり健康優良児であることは間違いなかった。
「ちょっと声かけてくる」
「まっ、待って!」
善は急げ、と言わんばかりに隣のクラスに乗り込もうとするサキの腕を引き、自分の教室へ戻った。
「どーした、どーした?」
「どうしたって、そんな急に話しかけても恥ずかしいし、何話していいのか分かんないよ」
「別に今から告ろうって訳じゃないんだから、『三味線教えてください~』って言えば良いだけじゃん」
サキに言われ、顔から火が出そうなくらい赤くなったのが分かった。
その通りだ。
私の目的は三味線を教えて貰いたいだけで、別に告白しようとは全く思っていない。気負う必要は全くなく、普通にそう言えば良いだけだった。
「じゃあ、もう一回、行こうか」と、なぜかここで思い切りの良さを発揮するサキに、変な考えで失敗した手前もう一度、行くのが恥ずかしくなってしまった。
戸惑う私を見て、サキは小さくため息を吐くと「それじゃあ、放課後にしようか」と良案を出してくれた。
それくらいの時間になれば、今の動悸も落ち着き、何とか話せる――と思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます