第58話

「ここだ」


 建物の一番奥の部屋。

 この先に彩が……。

 俺は、はやる気持ちを抑えつつユートが部屋のドアを開けるのを待つ。


「行くぞ、悠人は下がっていてくれ」


「あ、あぁ……」


 俺はユートとゴブリン二人の後ろに下がる。

 この中じゃ、俺が一番弱いし、ユートの言うことは妥当だろう。

 俺の役目は、いかにユートの足手まといにならないかだな……。


「行くぞ!」


 ユートはそう言うと、勢いよくドアを開けた。

 

「レイミー!!」


 ドアを開け中に入ると、そこにはレイミーと彩がいた。

 何かを話していた様子で二人は向かい合って部屋にいたのだが、ユートが入って来た瞬間、レイミーが彩を人質に取り始めた。


「ユート……やっぱり来てしまったのね」


「レイミー……もう終わりにしよう。僕は君を傷つけたくは無い」


「もう……終われないのよ……ここまで来たら! 終われないのよ!!」


 涙を浮かべながらそう叫ぶレイミー。


「デルサ! グレブ! 貴方たち裏切るの!」


「レイミー様……もうやめましょう……折角の平和が……これでは……」


 レイミーは二人のゴブリンの名前を呼ぶ。

 心配そうな表情でレイミーを説得しようと試みる二人のゴブリン。


「レイミー様……」


「私はなんとしても!!」


「その通りですよレイミー様」


「誰だ!!」


 俺たちがレイミーの説得を試みていると、またしても部屋の中に誰かが入ってきた。

 マジシャンのような怪しげな格好で、片目には眼帯をしている。

 怪しげな男は、部屋の中に入ってくるとレイミーの前に立ち、俺たちの方に頭を下げる。


「お初にお目に掛かります。私はルマルドと申します」


「ルマルド……君は……」


「ユート様、お気を付け下さい!」


「奴がレイミーをたぶらかした張本人です!」


「何!」


 ゴブリン二人……名前はデルサとグレブだったか。

 二人の言葉に、ユートは剣に手を掛ける。


「フフ……人聞きの悪い事を言わないでもらえませんか? 私はただレイミー様にご提案しただけです」


「何をヌケヌケと!!」


「反乱軍も今回の件もすべて! お前の入れ知恵ではないか!」


「おやおや、それでは私が黒幕みたいではありませんか」


 あっけらかんとしながら返答するルマルド。

 ユートはそんなルマルドに向かって剣を構える。


「今はレイミーと話しをしているんだ。ルマルド、君は黙っていてくれ」


「もとよりそのつもりですよ、私は何もしませんのでご安心を」


 ルマルドはそう言うと、レイミーの隣に下がって行った。


「もう……後戻りは出来ないのよ……」


「レイミー落ち着くんだ! 今なら間に合う!」


「もう間に合わないわよ……だから……私は……やり遂げるしかないのよ!!」


「レイミー!!」


 レイミーはそう言うと、部屋の壁を吹き飛ばし、彩を連れて外に逃げる。


「それでは私も……ごきげんよう!」


「くっ! デルサ、グレブ、悠人を頼む!」


「了解した!!」


 ユートはレイミーを追って外に出た。

 え、待って……俺は?」


「捕まっていてください!」


「え? っておわっ!」


 俺はグレブに持ち上げられ、ユートの後を追うことになった。

 なんて情けない格好だよ……。

 森の中を少し走ったところで、ユートはレイミーとルマルドを捕らえていた。

 彩もどうやら無事らしい。


「彩!」


「悠人!」


 感動の再会……となるはずだったのだが……。


「アンタ……なんで抱えられてんの?」


「……聞かないでくれ」


 恥ずかしい……助けに来たのにこの格好はかなり恥ずかしい。

 抱えられて運ばれてるんだもの!!


「下ろしてくれ……そろそろ恥ずかしい……」


「あ、わかりました」


「ありがとう……」


「何しに来たのよ……あんた」


 こっちが聞きたいわ!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る