第57話
「妹よ。」
俺は自室を飛び出し、下の階にあるリビングに向かい、未だ泡を吹いて裏返る蟹のように茫然自失としている妹に声を掛けた。
「え・・・・え・・・・え・・・・なに能力者・・・」
ぎこちない動きでこちらを見たり見なかったりする妹。さながら某有名☆戦争のロボットのようである。
「相談があるんだ。かなり真剣な相談がな。」
「相談以前にあんたの話がわたしゃまだ理解できてないだよ。」
突然田舎のおばちゃんみたいな口調になる妹。こういう憑依芸は残念ながら我々兄妹の癖らしい。
「そこをなんとか、恋愛マスター。いや、師匠・・・・!」
「し・・・しょう・・・」
「そうですとも!思い出してください!師匠の輝かしい功績の数々を!!保育園ではお兄ちゃんと結婚すると言い張り数多の男児を泣かせ、小学校では『お兄ちゃん親衛隊』とかいう隊員一名の部隊を編成し、中学校に上がるまでロクに彼氏の一人もできなかった我がししょッ!!!!グッッ!!!!!!!!!」
言い切る前に、妹は飛び起きて俺に飛び蹴りを食らわせていた。ぐったりとする俺に妹は顔を真っ赤にし、それこそ茹でガニのように真っ赤にしていた。
「はぁ!?うるさいうるさいうるさい!!!そんなことしてないし!!お兄ちゃん親衛隊じゃなくて『お兄ちゃん死ね痛い』だし!!ローマ字にしたらそうだし!!!彼氏だって今じゃ選び放題だし!!!」
まあどうやら、腹部に強烈な痛みを感じることにはなってしまったが、妹をこの世によみがえらせることには成功したようである。
「い、妹よ。お兄ちゃんはこれでもけが人なんだぜ・・・」
腹部なんか正に傷口である。
「あ、ごめんにいに・・・つい取り乱しちゃって・・・」
「取り乱すどころか狙いの定まった的確なキックだったが・・・」
「い、いやそれはにいにが悪い。昔の恥ずかしい過去を掘り返すなんてズルいよ。」
俺を起き上がらせようとしてくれる妹。
「恥ずかしがることはないさ。お兄ちゃんは嬉しい――ボっッッ!!!!!」
少女漫画の如き背景に花弁が舞うようなイケメン風フェイスで喋ろうとした俺の鋭い顎のラインに妹は華麗なジャブを叩きこんできていた。これじゃ恋愛マスターどころか武闘師範である。
「うるさいっての!オトすよ?」
恋愛ではなく、意識の方を落とされてしまうらしい。
「すまんすまん、ついふざけすぎてしまって・・・」
俺の首にがっつり肘固めを食らったところで漸く俺の悪ふざけは終わりを告げた。
兄妹のスキンシップにしてはいささか危険すぎたような気がする。
「で、相談ってなに?」
「あ、忘れるとこだった。」
「そんなに大したことじゃないじゃんそれ・・・」
「いやいや、これが結構深刻で真剣な相談なんだ。聞いてくれるか?」
「・・・」
妹は少しじらすような表情をした。ショートボブの髪がふわりと揺れる。
「ダメか・・・?」
悪戯な笑みを、妹は浮かべた。
「仕方ないなあ、にいには。話してみそ。」
「おいおいおばさんか――ボッッ!!!!!」
どうやらこの世界の俺は武闘派に囲まれる日々を送っていたようである。前かがみになり痛みに耐えながら、俺は妹に真剣な相談をするのだった。
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