パズルピースが帰るまで……

明智 颯茄

全ての始まり

 ――――男の目の前にはこんなの女の後ろ姿があった。光を発する小さな画面を見つめながら、パチパチと指先で音を立てている。


 彼女の動きは時々止まり、そばに置いてあった厚みのある本をペラペラとめくっては、


「入り乱れる……? きしむ……?」


 つぶやいて、首を傾げるをしてした。


 どうやら、彼女は自分の気配には気づいていないようだ。そのため男はもっと近づいてみた。だがまだ、彼女の意識はこっちへ向かない。


 女は小さな画面を凝視して、指でパチパチとするを繰り返す。そんなことがさっきから数分間も続いていた。


 男が脇からのぞき込むと、女はふと動きを止めて、自分へ驚いた顔を見せた。


「あれ? 今日、コンサートじゃなかったでしたっけ?」


 アンティークな卓上電気スタンドという、間接照明のほのかな明かりに映し出される影は、不思議なことにただ1つ、彼女のものだけ。男のものはどこにもない。


 最初は違ったのだ。こうではなかった。


 だが、ある事件が起きて、これが日常になってしまった、この男と女には。


 なぜ、こんなことが起きるようになってしまったかの話を、これからしよう。

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