88 救国の姫君7
しばらくして、広間の中にたくさんの大人たちがぞろぞろとあわただしく入ってきた。
さっき女王様を倒した時の一撃は、この広間に張っていた結界も消し去ってしまっていたみたいだった。
駆け込んできた人たちは、兵隊さんたちだけじゃなくて、かしこまった貴族みたいな格好をしている人たちもたくさんいた。
全員、灰の山となってしまった女王様と、抱き合うわたしたちをキョロキョロと交互に見る。
わたしたちは、女王様を倒した仕返しをされると思ってすぐに身構えた。
あんな人だったとはいっても、それでもこの国の女王様だったから。
それを守るのがこの人たちの役割のはずだから。
けれど、だれもわたしたちに敵意を向けてくる人はいなかった。
みんな『とまどった』ようにキョロキョロとして、そしてすこししてそれが落ち着いてくると、急にワァッと『かんせい』が上がった。
悪しき女王はいなくなった。
国民をしいたげる者はもういない。
この国は救われた。
そう言って、大人たちは大喜びし出した。
構えていたわたしたちはその状況にポカンとしてしまって、ワヤワヤガヤガヤと喜びを叫んでいる人たちを眺めることしかできなかった。
けど、夜子さんが言っていた。
女王様に本気でしたがってる人は、もうほとんどいないだろうって。
だからここにいる人たちも、心の中ではずっといやがってて渋々言うことを聞いていたんだ。
人が死んでしまったのにそれを喜ぶっていうのは、わたしにはちょっぴり引っかかったけど。
それでも、それほどまでに女王様がみんなを苦しめてきたんだってことがあらためてわかった。
だからって、死んでよかったってことではないと、思うんだけど。
広間にはどんどんと人がやってきて、状況を知るとその人たちもまた大喜びして。
広間の中はお祭りさわぎのようににぎやかになった。
すこししてから、貴族のようなかしこまった格好の人たちが何人かわたしたちのところにやってきた。
トレンチコートをシュッとしたみたいなその服装は、シンプルだけどとっても高そうで、えらい人の感じがした。
みんなとってもニコニコ顔で、ほがらかにわたしたちに笑いかけてくる。
そしてわたしたちは、とてもとってもお礼を言われた。
女王が倒れて、やっとこの国は正常になる、平和になるって。
どうやらその人たちは王族特務の人たちらしくって、わたしたちの戦いのほとんどを見ていたんだとか。
英雄と噂されているわたしがこの城に乗り込んで来たことを知って、みんなあわてて様子を見にきたらしい。
本当に本当にありがとうございますと、王族特務の人たちは泣きながらわたしの手をにぎった。
一番女王様の近くにいた人たちだからこそ、一番女王様のひどさを知っていたんだ。
でも、近くにいた人たちにもきらわらてしまっていた女王様は、悲しいなぁなんて思っちゃう。
わたしたちはみんなの中心まで連れて行かれて、大勢の人たちに囲まれながら戦いをたたえられて、感謝された。
その中でも王族特務の人たちはわたしに特に感謝してきて、わたしはちょっぴりこまってしまった。
だってみんなでワラワラ取り囲んでお礼を言ってくるから、レオとアリアからはぐれそうになったりしたし。
それに、わたし一人の力でできたことでもなかったから。
それでも魔法使いの人たちはみんな、わたしがにぎっている『真理の
白い剣をたずさえた英雄が、大いなる力を持って悪しき女王を打ち倒したんだ、って。
そうやってみんなは大盛り上がりだった。
そうやってみんなに囲まれていると、王族特務の人たちはわたしに、これからはわたしに国を『おさめて』ほしい、なんて言い出した。
わたしみたいな子供にじょうだんだよね?って思ったけど、みんなの顔は真剣だった。
わたしはあわてて首を横にふってことわった。
わたしはまだまだ子供だし、何にも知らないし、王様なんてとてもじゃないけどできない。
それにわたしは、元の自分の世界に帰らないといけないんだから。
けれど、それでも王族特務の人たちは、どうかお願いしますと言って引いてくれなかった。
悪しき女王を倒した英雄で、特別な力を持つわたしにしかそれはつとまらないって。
それに、王様がいないとこの国はくずれてしまうからって。
必死に必死にお願いされて、わたしはとってもこまっちゃった。
だってそんなの、わたしに向いてるなんて思えなかったんだもん。
だから、どうしようとレオとアリアの顔を見ると、二人もやっぱりおどろいた顔をしてた。
すこしだけ『ふくざつ』そうな顔をして、でもすぐになんだか『まんざら』でもない顔でニコニコしていた。
わたしがこの国をおさめれば、きっといい国になるよ、なんて言うんだ。
そんな自信、わたしにはないんだけどなぁ。
でも、わたしには女王様を倒してしまった責任があるのかもしれないって、そんな気持ちがふっとわいた。
悪い人だったけど、この国の女王様で、この国を取り仕切っていた人だ。
その人を倒したわたしには、その後の責任があるかもしれない。
そう思うと、なんだかことわりづらかった。
それにこの国の王様になれば、わたしが良いと思うステキな国にしていけるかもしれない。
元の世界にはぜったい帰らなきゃいけないから、ずっとはいられないけど。
でも、この国が平和になってちゃんと良い国になるまで見守るってことで、すこしくらいはいた方がいいかもしれない。
だからわたしは、王族特務のお願いを聞くことにした。
元の世界に帰りたいからずっとはいられないし、落ち着くまでって『じょうけん』をつけて。
それでもみんなは大喜びしてくれた。それでもいい、すこしでもいてもらえるならありがたい。世界を渡る方法は私たちが見つけます。そう言って。
そんな風にみんなで手放しで大喜びされると、なんだかとっても恥ずかしくって、でも悪い気はしなかった。
必要とされて、ありがたがられるのは、とってもうれしいし。
女王様が死んでしまったことは悲しいけれど、みんながこんなに幸せそうに喜んでくれるんなら、がんばってきたかいがあった。そう思えた。
この国の王様になるってことは、やっぱりまだまだ帰れないってこと。
それでもこの国をこのままほっぽっていくわけにもいかないし。
元の世界のみんなや、あられちゃんのことは、まだまだ待たせちゃう。きっと、帰ったらとっても怒られるよなぁ。
心の中でごめんってたくさん謝る。
今のわたしには、この国でもうすこしやらなきゃいけないことがあるから。
だからそれが終わったら、今度こそすぐ帰るからって。
晴香、創、お母さん……あられちゃん。本当にごめんなさい。
帰りたい気持ちはとってもあるし、待ってくれている人たちにもごめんって気持ちでいっぱい。
それでも今は、もうすこしこの国にいられて、それにレオとアリアと一緒にいられることがうれしいって思えた。
だから、もうすこしだけ。もうすこしだけこの『まほうつかいの国』で、ここの友達にできることをしよう。
魔法使いの人たちは大喜びして、口々にわたしのことを『姫様』とよんで頭を下げた。
王様とか女王様じゃないだなんて思いつつ、『お姫様』なんて呼ばれるのがとってもむずむずした。
でも、みんながよろこんでくれてるから、それはそれでいいのかな。
そうして、国中にこのニュースは伝えられた。
『白き剣の英雄の少女が友と共に女王を下し、新たに国を治める姫君となった』って。
国の人たちはみんな、それはとても大喜びして、何日か国中がお祭り騒ぎだった。
そしてみんなは、わたしのことをこう呼んだ。
救国の姫君、って。
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