52 妖精の喧嘩と始まりの力3

 まるで火山が噴火したみたいに、ドッカーンって音が鳴りひびいた。

 てっぺんから飛び出したいくつかの炎の塊が、飛びちる溶岩みたいに周りに放り投げられる。


 そして、そのうちと一つがわたしたちの方に飛んできた。

 まるで隕石みたいに勢いをつけて、炎の塊が一直線に落ちてくる。


「退がれアホ!」


 突然のことにびっくりして固まっていると、怒鳴り声が聞こえた。

 かと思うと、レオがわたしの腕を引っぱって強引に後ろに放り投げた。

 くっついていたアリアもつられて、二人で一緒にふかふかの雪の上にどさっと倒れ込む。


 次の瞬間、レオが目の前に張った炎の壁と落ちてきた塊がぶつかった。

 炎と炎とがぶつかって、熱さと熱さがぶつかった。

 その衝撃なのか、火傷するような熱気がぶわっと広がって、それに吹き飛ばされたレオがわたしたちの横に倒れた。


「レオ! 大丈夫!?」

「平気だ。なんとかしのいだ」


 背中からドサッも倒れたレオに、アリアがあわてて起き上がって飛びついた。

 レオは痛さで顔をゆがめていたけど、でもケガっていうケガはなさそうだった。

 わたしはそれを見てホッとする。


 でも、ホッと一息ついているひまはなかった。


「まただよ!」


 さっきと同じように、燃えている山がドーンと音を上げて炎が飛びちった。

 まるで炎の雨を降らせるように、てっぺんから飛んだ炎が降ってくる。


「こ、今度はわたしが……!」


 レオをかばって、アリアが立ち上がった。

 手を前に、炎に向かって伸ばすと、周りにあった雪がボコボコと盛り上がって、そしてとけて水になった。

 その雪解けの水はウネウネと空中を駆けてアリアの前に集まって、水の壁を作り出す。


 炎の塊が水の壁にぶつかって、ジュワーという音と一緒に一瞬で霧が広がった。

 今降ってきた炎はなんとか消すことができたみたいだった。

 それでも、火の山はドンドンと炎を吐き出すように飛ばしてきて、本当に炎の雨が降っているみたいだった。


 湖の氷や周りにつもってる雪、それに林の氷の木に降り注いで、じわじわと銀世界がとけていく。


 わたしも、二人を守らなきゃ。

 わたしに力があることはもうわかってるんだから。

 だからわたしにだって、二人を助けることが絶対にできるはずだ。


 わたしの大切な友達。

 守られてばっかりじゃなくて、わたしも二人を守るんだ。


 そう思って、アリアの前に飛び出そうとした、その時だった。


「いくらその力でも、今の君じゃあまだ無理だよ。退がって!」


 とっても透き通った、キレイな声がわたしたちの横を駆け抜けた。

 その声にハッとして思わずわたしが足を止めると、後ろから冷たい風が突風のように吹いてきた。


 吹いてきたけど、でもわたしたちをかわしてるみたいに冷たい風は当たらない。

 でもわたしたち以外の周りには、その冷たい風が波のように広がっていくのが、不思議と見えた。


 湖のほとり一帯に、冷たい風が『じゅうまん』する。

 すると雨のように降ってきた炎はかき消されて、ついでに炎でとけていた雪や氷の木も元の通りにこおりつく。


 まるで目の前で氷河期になっていくような感じだった。

 でも冷たいのに、不思議と優しさを感じるような柔らかいさむさ。

 冷えてこおって静かになっていくのを見ていると、何だかとても安心した。


 周りを冷たい風でいっぱいにして、降ってくる炎は全部かき消して。

 そうしているうちに燃えている山は大人しくなって、もう炎を飛ばさなくなっていた。


 熱くてうるさいのはなくなって、一気にシーンと静かになる。

 わたしたちはホッとしたのと不思議なのとでポカンとしながら、三人でくっついて周りを見回した。


「今のは、何? 魔法じゃなかった……」

「────今のは精術。自然と同調して、働きかける力だよ」


 アリアがポツリとつぶやくと、それに答える声が聞こえてきた。

 さっき聞こえた声と同じ、透き通るようなキレイな声。

 わたしたちと同い年くらいの男の子みたいな声だった。


 急に聞こえてきた声に、わたしたちはびくっと飛び上がった。

 レオはあわてて立ち上がって、わたしたちを背中にかばって周りにぐるぐる首をふった。


「だれだ! 姿を見せろ!」

「あ、ごめんね。今そうするから、ちょーっと待っててね」


 レオが大きな声で叫ぶと、のんきな声が返ってくる。

 ドキドキと『きんちょう』したわたしたちとは、ぜんぜんちがうテンションだった。


 そして、目の前にふわふわっと青い光がうすく輝いて、それがゆっくりと人の形になりだした。

 まるで景色から、雪の中から浮かび上がってくるみたいに、何もないはずのところからスーッと形が生まれてきた。


 そして青い光は、ハッキリとわたしたちと同じ背丈の形になった。

 くっきりと人が現れて、でもその身体はぼんやりと青白く光ってる。

 だから肌は少し青っぽくて、髪はキレイな水色だった。


 頭のてっぺんでお団子にした髪型で、キラキラ青く光る髪留めをしてる。

 お人形さんにみたいにクリクリと可愛いお顔で、目は鮮やかな青色。

 少し薄手の青いワンピースドレスみたいな服を着ていて、剥き出しの肩や腕の肌の色よりもう少し青が濃い。

 そしてその背中から、透き通る虫の羽のようなものが生えているのがわかった。


 何からおどろいていいのかわからない。

 何もないところから急に現れたこと?

 それとも青白く光って、青い肌色をしていること?

 それか、背中から羽が生えてること?


 それとも、声は完全に男の子だったのに、見た目はどう見ても女の子だってこと?


 わたしたちがポカンとしていると、その青い人はニッコリと可愛らしく笑って言った。


「こんにちは。ドルミーレの力を受け継いだ子に会えるなんて、びっくりだよ」

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