50 妖精の喧嘩と始まりの力1

 ココノツさんのお屋敷に泊めてもらって、わたしたちは次の日の朝に町を出ることにした。

 わたしたちがお屋敷を出る時、ココノツさんはとっても心配そうな顔で見送ってくれた。


 ドルミーレに関係はあるかもしれないけど、でもドルミーレではないんだから、自分を見失わず、力にとらわれないようにしなさいって、ココノツさんは何度も何度も言った。


 わたしとしては、その昔話のドルミーレとわたしの力に何の関係があるのかはわからなかったから、ちょっとピンとこなかったけど。

 でも、ココノツさんがとっても心配そうにそう言うから、気をつけなきゃいけないんだなぁって思った。


 ココノツさんは、ドルミーレとよく似た匂いがするわたしが、同じようにならないかって心配してるのかもしれない。

 確かにわたしには何だかすごい力があるけど、でもわたしにはレオとアリアがついてくれていて、一人じゃない。

 だからきっと大丈夫だよ。


 町を出る前にワンダフルさんや、他の町のヒトたちにもあいさつをした。

 ワンダフルさんはもう謝っては来なくって、にっこり笑って「また来てください」って手を振ってくれた。


 しゃべる動物さんたちが住むこのとってもステキなこの町に、ぜったいまた来たいねって三人で話しながら、わたしたちはみんなに見送られて町を出た。


 ジャングルの外に出たら、女王様の兵隊さんたちが待ち伏せしてるんじゃないかって、わたしはすこしビクビクしてた。

 でも外に出てみても、兵隊さんたちなんてまったくいなくって、わたしはとってもホッとした。


 ココノツさんは、町を飛び越えてジャングル全体がわたしの『りょういき』になったって言ってた。

 その効果でちゃんと外まで兵隊さんたちを追い出せて、みんな逃げ帰っちゃったみたい。


 これで『こころおきなく』、わたしたちは今まで通り西のお花畑までの冒険ができる。

 そう、思ったんだけど……。


 ジャングルを出て、わたしたちはまたいつもどおり色んな町に寄りながら西に向かって旅を続けました。

 ただ、今まで通りとちがうことは、どうやら『三人の旅の子供』っていうのが、女王様への『はんぎゃくしゃ』っていう風に色んな町に広まっちゃってるみたいってこと。


 最初女王様を怒らせちゃった時は、特に『しめいてはい』的なことはされなかったから気にしてなかったんだけど。

 この間兵隊さんたちを追い返しちゃったことがあって、わたしたちは完全に国の『おたずねもの』にされちゃったみたい。


 ただ、この世界には写真がないみたいだから、だれもわたしたちがその『三人の旅の子供』だってことはわからない。

 だから町でお買い物をしたり、人をお話したりするのはぜんぜん問題ないんだけど。

 でも、例えば宿に泊まらせてもらう時とか、仲良くなった人にお世話になれそうになった時に、あれ?って思われちゃうみたいで。


 名前と顔がわかってなくても、わたしたちが子供だけで旅してる三人組ってことがわかると、さすがにあやしまれちゃって。

 それでも何もない時もあったけど、でも『つうほう』されちゃってあぶない時もあって。


 けど、それもワンダフルさんの時と同じで、その人たちが悪い人たちってわけじゃない。

 あの『おうぼう』な女王様に逆らったら何をされるかわからないんだから、弱くて貧乏な町の人たちは、そうするしかないんだ。


 だから、わたしたちは今までよりちょっと旅がしにくくなった。

 それでも野宿することだって元々よくあったし、そこまで大変になったってわけじゃない。

 ものすごくコソコソしきゃいけない、ってわけでもないしね。


 後変わったことといえば、レオとアリアが言うには、最近近くで魔女の気配をよく感じるようになった、らしい。

 それに気づくたびにレオが怖い顔で周りをキッてにらむからか、近寄ってくる人はいないんだけど。

 レオもアリアも魔法使いで、やっぱり魔女のことはよく思ってないみたいだから、けっこう嫌そうな顔をしてる。


 もしかしたら、レイくんとクロアさんだったりするのかな。

 もしそうだったら、飛び出してきちゃったことをちゃんと謝らなくちゃ。

 許してくれると、いいんだけどなぁ。


 もし許してもらえたら、一回おうちに帰りたいんだってことをちゃんとお話して、手伝ってもらいたいなぁ。

 レイくんたちとの約束は必ず守るつもりだし、お話すればきっとわかってもらえる。

 二人が手伝ってくれたら、とっても『こころづよい』んだけどなぁ。


 でも、レイくんやクロアさんはもちろん、魔女はだれもわたしたちの前には来なかった。

 魔法使いのレオとアリアが隣にいるからかもしれないけど、ならどうしてわたしの近くに来るんだろう。

 わたしは魔女のことは嫌いじゃないし、仲良くしたいから、出てきてくれたら嬉しいのに。


 そんな感じで、前よりちょっとバタバタが増えながらわたしたちは冒険を続けた。

 色んな町でたくさんの人に会って、仲良くなって友達になったり、色んな場所でキレイなものや不思議なものを見たり、ちょっと危ない目にもあったりしながら。

 わたしたちは、大変だけど、でも楽しい冒険を続けた。


 そうやってわたしたちは、とっても寒い場所にたどり着いきました。

 氷でできた木の林を通り抜けると、おっきな湖がスケートリンクみたいに凍ってて。

 そしてそのすぐ隣では、山がゴウゴウメラメラと燃えていたのでした。

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