39 喋る動物と昔話6
カラン、コロン。
ゲタのような軽い足音を立てながら、とってもキレイなキツネさんが歩いてくる。
時代劇とかに出てくる『おいらん』さんみたいな、豪華な着物のようなもので体をくるんで、頭にはたくさんの髪飾りがついていた。
とてもキレイで、それになんだな色っぽい。きっと女のヒトだ。
カラン、コロン。
一歩前に進むたびに、『ゆうが』で『けいかい』な足音がひびく。
足を運ぶ仕草はとってもしっとりていねいで、とってもお上品だった。
感じる『ふんいき』もとってもキラキラしてて、きっとすごくえらいヒトなのかもしれない。
シュッとスラッとしていて、普通のキツネさんより大きい。
二本足で立ち上がってるから、人間の大人の人くらいの身長があった。
「なんとまぁ。並々ならぬ匂いがすると思って足を運んでみたら、人間の子。なるほど、これは面白いなぁ」
チョウチンを手に持つ家来のような動物さんたちを引き連れて、キツネさんは私たちの前でピタッと立ち止まった。
それからとってもゆったりとやわらかい高めの声で言ったのです。
なんというか、はんなりとした独特の『よくよう』でしゃべるヒトだ。
えらいヒトそうなのは伝わってくるけど、でも嫌な感じのしない、聞いていて気持ちの良い声だった。
「こ、これは長老様……! ご機嫌麗しゅう!」
「わちきを長老と呼ぶなど言ってるでしょうに。『老』という見た目はしてないつもりなんですけどねぇ。ところで、この子らはお主の客人?」
目の前まで来たキツネさんに、ワンダフルさんはあわてて地面にペタンと伏せて挨拶をした。
それをすこし『ふふく』そうに見下ろしたキツネさんは、ため息をつきながら質問する。
ワンダフルさんは伏せのような体勢のまま、上目遣いでキツネさんを見て首を横にふった。
「失礼致しました、ココノツ様────いいえ、この方々は旅の子らでございます。町にやってきたところに出会いまして、宿屋へ案内していたところでございます」
「でしょうねぇ。太古の匂いがする人間の子が知り合いだったと言われたら、さすがのあちきも腰を抜かしてしまうもの」
ココノツ様と呼ばれたキツネさんは、服の袖からせんすを取り出して、顔の下半分をかくしてからコンコンと笑った。
笑い方だけでもとってもお上品で、やっぱり『こうき』なヒトって感じがした。
「えっと……あなたは……?」
なんだか置いてけぼりにされた感じがしたから、わたしはおっかなびっくり声を上げてみた。
レオとアリアと三人でぴったりと体をくっつけ合いながら、キレイで『ゆうが』なキツネさんを見上げる。
キツネさんはおっとという顔をしてから、わたしたちに向けてやわらかく笑った。
「これは失礼。あちきはココノツと申す者。『どうぶつの国』本国の長老の一人にして、今はこの町の管理を任されております。どうぞよろしゅう」
ゆったりと膝を曲げてお上品なお辞儀をするキツネのココノツさん。
わたしたちもとりあえずお辞儀をして、自己紹介を返す。
よく見てみると、ココノツさんの着物の後ろからはふわっふわのおおきなしっぽが九本も生えていた。
昔話とかに出てくる、九尾のキツネみたいだ。
作り物みたいにキレイな毛並みに、『ごうかけんらん』な衣装。それにとても『ゆうが』で『こうき』な『ふんいき』は、たしかに九尾のキツネみたいなすごさを感じる。
ココノツさんはわたしたちのことを順番に見回して、とっても面白そうにうんうんとうなずいた。
「わっぱたち、よければわちきの屋敷にいらっしゃいな。歓迎しましょうや」
「え、でも……いいんですか?」
「いやーよかったですなぁ! 長老さ────ココノツ様直々のお誘いとは羨ましい! 是非お伺いするべきですよ!」
ココノツさんの突然のお誘いにびっくりしていると、ワンダフルさんが伏せたまま顔をこっちに向けて言った。
ただそう言われても、ココノツさんがなんだかすごそうなヒトだってことはわかるけど、わたしにはイマイチ状況がわからなかった。
わたしはこまっちゃって、となりのレオとアリアに助けを求めた。
すると、キラキラした目でココノツさんを見上げていたアリアが、ハッとして説明してくれた。
「たしか、『どうぶつの国』の長老さんっていえば、国のとってもえらいヒトのはずだよ。『どうぶつの国』にはとっても長生きなヒトたちがいて、その中でもとくに長生きですごいヒトが、その長老っていうのになって、国のことをするって感じだったと思う」
「
フフフと微笑みながらほめてきたココノツさんに、アリアは顔を真っ赤にして口をパクパクさせた。
とってもキレイなキツネさんだから、目の前にいるのがウソなんじゃないかってくらい、夢見心地な気分になる。
動物好きのアリアにはきっと、もっともっとステキに見えてるんだ。
「わっぱだけでの旅路は疲れたでしょう。お話したいこともありますし、どうでしょうねぇ」
「えっと……じゃあ、お言葉に甘えちゃおうか……?」
ニコニコと優しく誘ってくれるココノツさんに、わたしは二人の顔色をうかがいながらうなずいた。
アリアは完全にココノツさんに夢中だし、レオもそのすごさに『あっとう』され気味だったけど、別に悪い風には感じてないみたい。
悪いヒトには見えないし、それに『どうぶつの国』の長老さんってことでみんなにも信頼されてるみたいだし、ついて行っても大丈夫そうかな。
「ようございました。さぁ、では早速参りましょうかねぇ。古の、『始まり』を抱く子と巡り会えるなんて、今日のわちきはとてもついております」
「では、私はこれにて! 長ろ────ココノツ様のお誘いであれば、そちらにお世話になった方がいいでしょう!」
私の返事を聞いて嬉しそうに笑うココノツさん。
それを見たワンダフルさんは、耳をピンと立ててそう言った。
「あ、ごめんなさいワンダフルさん。せっかく案内してもらってたのに」
「なんのなんの。気にすることではありませんよ。ココノツ様と過ごされた方がずっといい。またお会いできる日を楽しみにしておりすよ……!」
「うん、ありがとう。町を出る前にはちゃんとあいさつするからね!」
そうして、わたしたちはワンダフルさんにバイバイと手を振って、ココノツさんについてお屋敷に行くことになりました。
わたしたちが歩いていく後ろで、ワンダフルさんはぴょこっと立ち上がって、その短い腕をふって元気よく見送ってくれた。
本当に、この町のヒトたちはいいヒトだらけだなぁ。
こんなヒトたちが差別されて肩身がせまい思いをしたるなんて、ぜったい『りふじん』だ。
でも、ココノツさんみたいなえらいヒトがここにいるなら、もう少し反発できそうな気もするけれど。
そういうこととかも、お話しながら聞けるかな。
そんなことを考えながら、わたしたちはココノツさんと一緒にチョウチンを持った家来さんたちに囲まれてツラツラと歩きました。
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