2 同志
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『まほうつかいの国』、魔女狩り本拠地、ダイヤの館。
その一角で、レオとアリアが帰還していた。
レオに与えられた表向きの任務は、姫君アリスの監視だったが、今それを馬鹿正直に続ける意味もなくなった。
ロード・デュークスが彼を送り込んだのは、姫君抹殺という裏の任務のためだったのだから。
「これからどうしたもんかねぇ」
二人以外には誰もいない、異界の門を開くための儀式用の部屋。
レオは伸びをしながら気だるそうに言った。
裏の任務とはいえ、ロード・デュークスからの指令を無視したレオ。
彼にかけられた呪いを解くことはできだが、その配下での立場が危うくなっていることは確かだった。
「このまま大人しく魔女狩りを去るわけにはいかないよ。私たちはまだ、一番の目的を果たしていないんだから」
「そりゃーそうだけどよ。でもどうする。ロード・スクルドのとこでも行くか?」
腕を組んで難しい顔をするアリアに、レオは冗談交じりに言った。
スクルドとはお互いの件を表沙汰にしないという約束をした、言わば共犯関係のようなもの。
押し掛ければ受け入れてもらえる可能性はあった。
「ロード・スクルドは……まぁその選択肢も残しておくべきだけどね」
しかしアリアの反応は芳しくなかった。
スクルドはアリスに屈したとはいえ、思想的には相反している立場だ。
その配下につくことは、決してベストとは感じられなかった。
「まぁ焦って決める必要もねぇか。もう少しくらいロード・デュークスの目を誤魔化せるだろ。とりあえず今日は帰って休もうぜ」
「……うん。そうね」
固くなっているアリアの肩をポンポンと叩いて、レオは笑いかけた。
アリアは基本的には生真面目で、頭が回る分考え過ぎてしまうきらいがある。
それをほぐすようにレオは言って、部屋を出ようと扉を開いた時だった。
「おかえりなさい、
「────!?」
扉の目の前に女が立っていて、ぶつかりそうになった。
レオは慌てて飛び退いて、警戒心を剥き出しにしてその女を見た。
女は二人組だった。
黒い軍服を着ている。軍帽を目深に被り、ロングコートの中に垣間見えるのは、ショートパンツから伸びたタイツを履いた長い脚。
明るめの茶髪を伸ばし、長めの前髪が片目を覆っている理知的な女。
のっぺりとした長い黒髪をバッサリと切り揃えた気だるそうな女。
「是非お二人とお話がしたく、こうして馳せ参じてしまいました。突然押しかけてしまったことはお詫びします」
「お、お前は確か、ロード・ホーリーのところの……」
「はい。私がシオン。そしてこちらが妹のネネです」
シオンとネネ。ロード・ホーリーの配下で
突然の来訪に戸惑うレオに、シオンは穏やかな微笑みを向けながら穏やかに語りかけた。
その傍でネネはつまらなそうに仏頂面でレオとアリアのことを眺めている。
「そのH1とH2が、私たちに何の用?」
「お二人のお力を貸して頂きたい……いえ、お二人のお力になれればと思いましてね」
アリアが身を乗り出し、疑心を表に出して尋ねた。
ロード・ホーリーの配下の魔女狩りたちは、異端な集団としてあまり好まれていないからだ。
統括しているロード・ホーリーは行方が知れず、彼女たちもまた通常の魔女狩りとは違う動きを見せている。
関わりも少ないことも相まって、あまり信用できる相手とは言い難かった。
しかしそんなアリアの警戒心剥き出しの問いかけにも、シオンは穏やかな笑みを返した。
そこにあるのは明らかな余裕だった。
自分は正しいことをしているという絶対的自信の元行動している。
いくら疑われようと、罵られようと折れることのない芯を感じさせた。
「俺たちの力に? どういう意味だ」
「あなたたちの今の立場……といいますか状況ですかね。それは大方把握しています。今後の身の振り方に困られているのでは?」
「お前、どうしてそれを……」
「我らが主、ライト様より聞き及んでおります」
「ロード・ホーリー!? どうしてあの人がそんな……」
「あなたたちのこともまた、気にかけていらっしゃったからですよ」
上げられたロード・ホーリーの名に訝しがるレオ。
しかしシオンはあくまで穏やな口調を崩さない。
「ライト様は、アリス様と旧知の仲であるあなたたちのことも心配しておられました。あなたたちに力をお貸しするよう、言われています」
「私たちに力を貸して、あなたたちにメリットがあるの?」
「メリットかどうか、という話ではありませんよ。ただそうですね。私たちの志は似ている。協力関係としては申し分ないと思いますよ」
胸の内を明かさず、しかしこちらの懐を見透かしたように語りかけてくるシオンに、アリアは疑いの目を逸らすことはできなかった。
しかし現状、シオンの提案は魅力的ではあった。
身の振り方を考えなければならない二人にとって、それは救いの手と言ってもいい。
「あーもーごちゃごちゃ面倒くさいなぁ! このままここにいてもロード・デュークスに何されるかわかったもんじゃないんだから、さっさとアタシらと来ればいーじゃん」
レオとアリアが訝しげに躊躇っているところに、ネネがキーキーと喚いた。
退屈そうにしていた仏頂面をさらに歪め、不機嫌そうに口をとんがらせる。
「アンタたちがアリス様のこと助けたいのはわかってんの。ライト様もアタシたちも気持ちは大体一緒なんだから、大人しくこっち来なよ! バカじゃないの!?」
「ちょっとネネ! 言葉には気をつけなさい」
ピーキーと騒ぐネネをシオンがピシャリとたしなめた。
姉に叱られたネネは不機嫌そうに眉を寄せながらも、少しシュンとして肩を落とした。
「…………」
そんな二人のやりとりを見て、レオとアリアは顔を見合わせた。
ロード・ホーリーが、そしてこの二人が具体的に何をしようとしているのか見えてこないが、言わんとしていることはわかる。
自分たちの置かれている状況と目的、そして彼女たちの提案を踏まえて考えれば、選択肢は限られている。
「わかった。話を聞くよ。私たちも選り好みをしていられる状況でもないし」
アリアが溜息まじりにそう言うと、シオンは少し驚いたように目を向いて、そしてゆっくりと微笑んだ。
ホッと一安心とでもいうように笑みをこぼして、長い髪を優雅に掻き上げた。
「わかって頂けて安心しました。それではご案内しましょう。私たちの館へ。私たちはこれから、同志です」
レオとアリアは自分たちの今後に不安を覚えながらも、覚悟を決めて頷いた。
これから何が起ころうと、一番大切にしているのは変わらない。
アリスのためならば、多少の危険は厭わない。
二人はそう心を固め、シオンたちの後に続いた。
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