14 お節介

「このままなら私たちの任も、つつがなく終えることができるでしょうね」

「シオンさんたちは、私が記憶と力を取り戻すのを見届けた後はどうするんですか?」


 安心したように微笑むシオンさんに、私は素朴な疑問を投げかけた。

 魔女狩りの中でも色々な事情があることは一応わかった。

 二人に指示を出したロード・ホーリーという人が、その思惑はわからないけれど、他の人たちに反して私の身を案じているということも。

 けれど今の私が力を取り戻した後、それを見届けたこの人たちはどうするのか。


 いずれにしても魔法使いにとって私は必要不可欠ということだし。

 ここまでの話だと私の味方のようにも感じられるけれど、でもそう簡単なものでもない気がする。


「アタシたちはどうもしないよ。アリス様の魔法が無事解けた事を確認したらそこで任務は終了だからね。サクッと帰るよ」

「え?」


 ネネさんのなんの気ない言葉に私はポカンとしてしまった。

 魔法使いにとって私の力は必要なもので、力を取り戻したのを確認したら連れ帰りたいものじゃないの?

 あれ、でも違うのかな? あれ?


 混乱している私を見てシオンさんはクスリと笑った。


「私たちがライト様より受けた指令は、あくまで見守ることのみです。その後についてはあなたの意思に任せるようにと言われています」

「でも、魔法使いはみんな私の力が必要なんじゃないですか? 魔法使いとしても、魔女狩りとしても」

「ええ。普通はそうでしょう。しかし私たちライト様率いる一派は、既に他の魔女狩りとは密かに志を違えているのです。魔女狩りという組織に属してはいますが、今の私たちは魔女を狩ってはいませんし、魔法使いという存在がいかに愚かなものかを知っているのです」

「…………?」


 儚げに微笑むシオンさんの真意がいまいち読み取れなかった。

 その言葉の意味を今の私では理解できなかった。

 それも、記憶を取り戻せばわかるのかな。


「つまりアタシたちはアリス様の味方ってこと。まぁ現状、特別手を貸したりするわけじゃないけど、でも気持ちは味方だよ」

「は、はぁ……」

「私たちについて特に難しく考える必要はありませんよ。あなたに害を与えることはないと、そう理解してもらえれば十分です」


 そんな気軽な感じでいいのかなと思いながらも、頷くしかなかった。

 言ってしまえば、私にとって魔法使いたちの事情なんて知ったことじゃない。

 シオンさんたちが『まほうつかいの国』でどんな立場かなんて、気にしたって仕方のないことだから。

 だから今は無理に理解しようとはせずに、少なくとも敵ではないということだけわかっておけばいいかな。


「そう、ですか……じゃあ、もう一個聞かせてください」

「はい、何なりと」


 目にかかる明るい茶髪を優雅に搔き上げて、シオンさんはニコリと笑った。


「どうしてこんな話を私にしてくれたんですか? 見守るだけだったら、別に魔法使いの事情とかの説明をする必要はないわけですよね?」


 何もわからない私に説明するのは手間だろうし、言ってしまえば二人にとっては無駄なこと。

 陰ながら私を見守って、全てを見届けたら帰ってしまえばそれで終わりのはずなのに。

 わざわざこうして姿を表して、懇切丁寧に説明してくれて。

 私としては助かるけれど、でもその真意が見えなかった。


「実益の問題ではありませんよ。これは指令というよりは私たち個人の気持ちの問題です」

「よーするにお節介ってこと」


 シオンさんの言葉に被せるようにネネさんが口を挟んだ。

 頬杖をついたまま口元をニヤリと歪める。


「成長したアリス様に会っておきたかったの。単純にね。それでまぁどうせなら、教えられることは教えてあげようっていう姉様ねえさまのお節介」

「ちょ、ちょっとネネ!」

「だってホントでしょー。姉様ねえさまったら、ライト様からアリス様を見守りに行って欲しいって指令が来た時小躍りしてたじゃん。アリス様に会えるーって。姉様ねえさま昔からアリス様のこと────」


 シオンさんは、ペラペラとニヤケながら話すネネさんの頰を力強く手で挟むことで黙らせた。

 その顔は真っ赤になっていて、大人びた余裕は少し剥がれていた。

 もしかしたら昔私が『まほうつかいの国』にいた頃、私はこの人たちとも何らかの関わりがあったのかもしれない。


 だからこれは、単純なシオンさんたちの好意ってことなのかな。

 魔法使いの中でも独特の立場にいる二人の、せめてもの手助けなのかもしれない。

 そう考えると、この人たちから全くの敵意や危険性を感じないことにも少し納得がいった。


「と、とにかく」


 ギブアップと手を挙げたネネさんを放してから、まだ少し顔の赤みを残しながらシオンさんは咳払いした。

 恥ずかしいのか、私の顔をまっすぐには見てこない。


「現状私たちがお話できることはお伝えできたでしょう。後はあなたの行く末を見守るだけです。その先のことはアリス様自身決めること。今私たちがして差し上げられることはもうありません」

「助けてあげたくても、見守ることがアタシたちの任務だからね。力は貸してあげられないんだ」

「大丈夫だと、思います。私は一人じゃありませんから。確かに不安はいっぱいですけど、でも、助けてくれる友達がいるから」


 繋いだ手に力を込める。

 隣を向くと、氷室さんが静かに頷いてくれた。

 これから訪れるであろう困難も、友達がいればきっと乗り越えられるって、私は信じてる。


「その言葉を聞いて安心しました。どうか、その心のままに生きてください。それが全てを救うことになるのですから」

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