驚の25 買い物ついでに



 お昼を少し回ったくらいに待ち合わせ場所に行くと他の4人はまだ戻ってきていなかった。


「ちょっと早かったみたいだな」

 俺は近くの売店でジュースを買って詩織に渡しながら言った。

「緑くんはきっと姉さんに振り回されてるわね」

「はは、だろうな。駿もアリサが相手じゃ大変だろうし」

 ホールの中央の噴水に腰掛けてみんなの帰りを待つ。


「ミントくんは……お付き合いしてる人いるの?」

「なんだよ?急に。付き合ってる彼女はいないな、今のところ」

「…今のところってことは…好きな人はいるってこと?」

「さぁ?どうだろうな?…でもどうしたんだ?急に?」

 詩織はちょっと考えてから口を開いた。

「駿くんがミントくんには彼女がいるんじゃないかって言ってたから」

「駿が?」

「ええ、ミントくんからいい匂いすることがあるって」

「…………」

 言葉か……

 あれだけ毎日うちに来てたら匂いも写って当然か。

 アイツ距離感が近すぎるからなぁ、仕方ないっていやあ仕方ないけど。


「ミントくん?」

「あ、ああ。すまん、ちょっと考えごとをしてた」

「ごめんなさい。余計なこと聞いちゃったね」

「別にいいぞ、付き合ってる相手がいないのは事実だしな」

「…そっか」

 何となく詩織がほっとした顔をしたように見えたのは気のせいだろうか。


「おまたせ〜!」

 俺が詩織のそんな顔を気にしていると元気な声が飛んでくる。

「はっはっはぁ〜」

「おう、沙織にミドリン」

「沙織くん!少しくらいは荷物を持って行く気はないのかい?」

「あら?ジェントルマンなんでしょ?」

「いかにも!僕にとってはこれくらい軽い軽い!」

「アホだな」

「アホよね」

「同感です」


 大量の荷物を抱えて高笑いするミドリンを見ていると駿とアリサも戻ってきたみたいだ。


「あ〜疲れた。アリサさん、歩くの早いよ」

「駿が遅いのよ、ほらほら」

「え〜ちょっと待ってよ〜」


 ははは、あっちもこっちも似たり寄ったりかよ。以外といい組み合わせなのかもしれないな。


 ホールの噴水の前でみんなでワイワイと雑談してから近くのファミレスで昼ごはんを食べることに。


 昼からは男子と女子に分かれて水着を見にいく。


 アリサが別れ際に

「ミントの目を釘付けにするくらいスッゴイのにするんだから!」

 って叫んでた。

 はいはい、好きにしてくれ。



 男子チームはさっさと水着選びを終えて再び噴水前で話していた。


「なぁ、駿」

「何かな?ミントくん」

「詩織が言ってたんだけどさ、俺からいい匂いがするって話」

「え〜詩織ちゃん、ミントくんに話したんだ?内緒でって言ったのに」

「ほほう、僕も興味があるね。ミントくんに彼女がいるんじゃないかってことだね」

「そんなに分かるものか?」

「どうかな?僕は鼻がいいほうだからなんとなくわかったけど」

「僕にはわからないな。くんくん、たこ焼きかな?」

「ミドリンはちょっと黙ってろ」

 ミドリンにチョップをかまして黙ってもらった。


「たまたま、何かの匂いが移ったんだろうよ」

「…そうかなぁ?」

「そうそう、別にいいじゃねーか」

「う〜ん、そうだね。ミントくんには内緒でお付き合いしてる人がいるってことで」

「おいっ!」

「あはは、冗談だよ、冗談」

 全く、駿の勘の鋭さには驚かされるな。


 そんな話をしているとしばらくして女性陣が戻ってきたのだが…


「偶然そこで出会っちゃってね〜」

 アリサと一緒にこちらを見て微笑んでいるのはなんと言葉だった。


「アリサと偶々お会いしましたのでご一緒させて頂いてます」

 丁寧に俺たちに頭を下げて挨拶する言葉。

 後ろでは沙織と詩織が複雑そうな顔をしている。

 そりゃそうだろう、学年一の才媛であり校内一の美少女と目されているヤツがいるんだからな。


「やあやあ!柊くん!久しぶりじゃないか〜!」

 こういうときのミドリンは無駄に頼りになるな。

「緑川君、お久しぶりです。それに・・・一ノ瀬・・・君も」

「あ、ああ、そうだな、


 俺と言葉の間を微妙な空気が流れる。

 うまい具合にアリサが言葉をみんなに紹介しだしたので何ともなかったが、危うくいつも通り呼んでしまいそうになる。


「でね、言葉もミドリンの別荘に一緒に連れて行きたいんだけど、いいかな?」

「of course!!当たり前じゃないか!何人でもどんとこいだよ!」

「ありがとうございます。緑川君」

 言葉は微笑みを崩さずにミドリンに礼を言う。


「ねぇ?ミント、アリサと柊さんて仲がいいの?」

「みたいだな」

「あんまり仲がいいって話聞いたことないけど」

「俺に言われてもな?」

「それもそうね、でも柊さんてもっととっつきにくい人かと思ってたわ」

 沙織と詩織は顔を見合わせて頷きあった。


「そうなのか?」

「だって、ほら、なんか住む世界が違うって感じじゃない?」

「私もこうしてお話しするまでもっと、こうなんて言うか高い感じの方だと思ってましたから」

 ふーん、校内での言葉のイメージはそんな感じなんだな。

 うちじゃあんなんだからイマイチピンとこないな。


 結局のところアリサが上手く立ち回ったおかげか特に何もなく俺たちは地元まで帰ってこられた。


「じゃあまた連絡するな」

「日にちは僕から連絡するからよろしく頼むよ!」

「ミドリン、決まったら早めに教えてよね」

「それでは、皆さん、おつかれ様でした」

 沙織と詩織、駿は帰り道が同じ方向なので一緒に歩きだす。

 ミドリンは何故か当然のように迎えの車がきていた。

 アリサは今日は用事があるとかで泣く泣く駅に戻っていく。


「なぁ言葉」

「なにかしら?」

「お前今からどうするんだ?」

「聞くだけ無駄だと思わないのかしら」

「まぁそうなるよな」

 5人を見送ってから俺と言葉は並んで俺の家に向かって歩いていった。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る