驚の11 料理って偉大だな



「お疲れ様でした!」

「はい、お疲れさん。これ家に帰ってから食べてみて。次に出る新商品」

「えっいいんですか!ありがとうございます!」

「いつも助かってるからね。じゃあ気をつけて」

「はい、お疲れ様でした」

俺はバイトを出て家へと向かう。

バイトも順調に出来てるし、お土産は貰ったしでいうことなしだな。


後は可愛い彼女でも出来れば完璧なハイスクールライフを送れるぞ?


俺は足取りも軽く我が家へと続く道を歩いていく。

ワンルームとはいえ広さも結構あるためかなり住み心地の良い部屋だ。


ハイツの階段を登っていく。


「あら、やっと帰ってきたのね。あと5分待って帰ってこなかったら帰ろうかと思ってたのよ」

俺の部屋の前で言葉が買い物袋を下げて立っていた。


「は?お前、どうしたんだ?俺ん家の前で」

「あら、ご挨拶ね。せっかく晩御飯を作りに来てあげたのに」

言葉はそう言って買い物袋を上げてみせる。


「いや、そうじゃなくて急にこなくてもいいだろ?」

「たまたま思いついたから仕方ないじゃない」

「結構待ったのか?」

「10分くらいよ」

「それであと5分で帰るのかよ?」

ため息混じりに俺はそう言って鍵を開ける。


「とりあえず入れよ、立ち話もなんだしな」

「あら、部屋の片付けとかはいいのかしら?見られると困るものとか無いの?」

「んなもんねーよ。寝るだけの部屋だからな」

「そう、ならお邪魔させてもらうわね」


そう言ってさっさと俺の部屋に入っていく言葉。


買い物袋をキッチンに置いている言葉の後ろ姿に声をかける。

「でも、急にこなくてもいいんじゃないか?連絡くらいよこせよ」

「いやよ、めんどくさい」

「待ってる方が面倒じゃないか?」

「しばらく待って帰ってこなかったら帰るから問題ないわ」

言葉は振り返りもせずキッチンに材料を出していく。


「それで何を作ってくれるんだ?」

「適当に買ってきたから今から考えるわ、冷蔵庫の中見ても?」

「適当って、お前」

「冷蔵庫の中見てもいい?」

聞いちゃいねー。

「ご自由にお使いください」


「あなたよくこんな中身で生きてこれたわね」

「言っただろ?寝るための部屋だって」


言葉は大袈裟に溜息をついて冷蔵庫の中身を出していく。


「とりあえず何か作ってあげるから、あっちで待ってなさい」

「はいはい」

キッチンにいても役立たずな俺はリビングに避難する。さて、一体何を作ってくれるのか楽しみにしておこう。



30分後。俺の目の前には実家を出てからおそらく初めてであろうちゃんとした食事が置かれていた。


「あり合わせだからこんな物ね。まさか冷蔵庫の中身がほとんど空だなんて思ってなかったから」

「いや、お前?これ全部作ったのか?」

「そうよ」


言葉が、順番に説明してくれる。

鶏肉のみぞれ煮、ニラ玉、揚げだし豆腐、お浸し、ポテトサラダ。


「味は保証しないわよ。あなたのとこ調味料すらほとんどないんだから」

「う、すまん」

しかし驚いた。こいつ料理めっちゃ上手いんじゃないか?


「ほら、冷める前に食べましょう」

「あ、ああ、じゃあ」

「「いただきます」」


言葉の料理は、本当に美味かった。涙が出るほど美味かった。

ちょっと泣いた。


「なんで泣きながら食べてるのよ?気持ち悪いわね」

「人間らしい食事があまりに久しぶりで・・・」

「あなたそのうち死ぬわよ?」

「俺もそう思う」


あっと言う間に食べ終わった俺は、改めて言葉に礼を言う。

「いや、マジで助かったわ。お前に足向けて寝れねーわ」

「別にいいわよ。それより何か飲み物ないの?コーヒー以外で」

「そこの棚に紅茶ならあったと思うが」

「ここ?頂くわね」


食後に俺はコーヒー、言葉は紅茶。

「そうだ、バイト先の店長がこれくれてさ、お前も食うか?」

「あら、頂くわ」

店長がくれたのは、ロールケーキ。

言葉が切り分けてくれる。


「うん、美味い」

「美味しいわね、コンビニよね?」

「ああ、新商品って言ってたぞ」

「ふ〜ん。私が来るときはこれ買っておいてね」

「また、作りに来るのか?」

「これくらいで良かったら気が向いたら作りに来てあげるわ」

「これで、これくらいなのか?」

「ええ、あり合わせで作ったって言ったでしょ」

本気で料理したら一体何が出来るんだ?


「それと、ご飯作りにくるのに一つ注文があるわ」

「なんだ?」

「少なくとも、醤油と塩コショウ、あと砂糖くらいは用意しといてちょうだい」

「すまん。努力する」

「努力って」

言葉は、ロールケーキをフォークでクルクルと回し溜息をつく。

「今度わ、私が買ってくるわよ、まったく」

「ははは、助かる」

お互い最後の一口を口に運ぶ。


「それじゃあね」


ロールケーキを食べ終えると言葉はさっさと帰り仕度をして玄関に向かう。


「じゃあ、また」

「おう、ありがとうな」

礼を言う俺を言葉はちょっとの間じっと見つめてからいつかのように首を横に振った。


「どうした?」

「なんでもないわ、次からは一応連絡入れる様にするわ」

「ああ、そうしてくれ」


おやすみなさい。そう言って言葉はドアを閉めた。


さっきの感じ前にもあったよな。あいつ何を考えてたんだろう?


そう考えると何故だか少しだけ胸の奥がモヤッとした。






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