僕は「僕」を生きる

 

 僕は「僕」を生きる


 

 何が好きかと訊かれれば

 文章を書くことだと答える

 他に好きなものなんてないから

 頭が良いわけでもない

 スポーツだって苦手だ

 絵も下手だし

 音楽は好きだが歌はダメ

 友人も少ない

 孤独に強いということもない

 両親に守られてきた僕は

 一人では何もできない弱虫だ 

 

 果たして僕は生きていけるのか?

 他の人間が輝いて見える

 そのうち自分に対して腹が立ってきて

 自分だけではなく

 他人までもが憎くなる

 無気力、無関心、無感動────

 僕はこんな人間であったか?

 かくも情けない人間であったか?

 己の不出来を他人のせいにして逃げても

 現実は決して変わらない

 他人を、世間を、社会を、世界を恨むのは筋違いだ

 

 「そんなことわかってる」

 それでもなお僕は言い訳し、逃げようとする

 「死」に逃げを求めても

 自分で死ぬだけの勇気もない

 どうしようもない自分を誰も助けてはくれない

 この期に及んでまだ他人に縋るのか

 あの頃の僕はまだ「まとも」だった

 自分を信じることができた

 だが今はただ何となく生きているだけだ

 人に負けない何かがあったはずだ

 だが今は消耗品に過ぎない

 

 眩しいくらいの他人の笑顔に

 消えてしまいたいと思った

 助けられないで苦しみの中に生きることは

 仕方のないことだと腹を括った

 だが、どうして人々は

 それでもなお「弱者を大切にしよう」と言うのだろう

 その実、彼らは弱者を救えない

 表では救うべき人がいると言いつつ

 裏では自業自得と笑っている

 

 自分の幸せが誰かの不幸によって成り立っていると誰も知らない

 いや、あえて見ていないだけだ

 

 もう他の誰かから優しさなど期待しない

 それは甘えであり、甘えは弱者が吐く

 弱者に救いはない

 彼らは立ち上がることもないから

 誰かに甘え、己の弱さを見せて

 一体何になるか

 それで気持ちが楽になっても

 問題が解決された訳ではないのに

 

 一度も弱者の側に立ったことのない人々には

 決してわからない

 一度も強者の側に立ったことのない人々には

 決してわからない

 

 哀れみを含んだ目

 軽蔑、嘲笑、呆れ

 色んな目を見た

 どれも僕を刺すようだった

 

 挫折は人を変える

 だがそれがプラスに働くのは稀だ

 挫折は人を狂わせる

 成功者になったごく一部が

 挫折によって生まれ変われたと嘯く

 

 ああ

 今日も僕は

 誰かに殺されることを願いながら

 どうしようもない「僕」を生きている

 

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