一章
第2話特級魔術士の二人
「特級魔術士ですか!」
幸い他に人がいなかったから良いものの、誰かに聞かれてたら、この子クビだな…
街の名を冠したエテルナ魔術協会の受付に来た僕らが提示した身分証を見て、思わず叫んだのも分からないではない。
獣人の血を引いているらしく、ピンと立つふわふわの三角耳から緊張感が伝わってくる。
特級魔術士は規定上存在するが、公に付与された記録が存在し無い。
魔術協会でも知らない人の方が多いのでは無いだろうか。
……この子よく知ってたな
が、僕の感想だ。
「失礼しました。
規則上、特級魔術士様はマスターが担当となっておりますが、ただ今マスターは不在でして、明日まで戻りません。
ご宿泊先がお決まりでしたら明日お迎えに上がりますが、いかが致しますか?」
「そうだな……」
髪の色と同じ赤い瞳を閉じながら答える。
「まだ宿は決まっていないので、明日の午後にでも出直すことにしよう。
分かっていると思うが、私達が来たことはマスター以外には話してはならないぞ。」
「は、はい!承知しておりまふっ!」
……噛んだよ
「では、明日来る」
ツッコミたいのだろうが、カッコつけた師匠が、踵を返す。
……バレますよー
後ろに付くと、赤い髪が小刻みに揺れている。
「さて、どうしますか?」
「君は私に丸投げするのか?
少しは自分で考え、提案と共に問いかけるのが、出来た弟子というものだろうが」
若干涙目で偉そうに
「では、宿を見つけに行こ……」
「メシだな」
最後まで聞こうともせず言われる。
これだから自己中の極みは……
◇
街の中ほどに食料を中心とした露店が立ち並ぶエリアがあった。
等間隔に並ぶ木材で出来た露店は、横三メートル、師匠の腰ほどの高さだから一メートルのカウンターに商品が並び、そこから伸びた支柱が幌布の屋根を支え、日光から商品を守る様にせり出している。
各店独自に配色された色とりどりの幌布が気分を高揚させる。
食材などは露店で、道具や武器など高価な物は店舗で販売される事が多いこの世界で、街の豊かさは各店に並ぶ商品の豊富さと行き交う人々の表情から読み取れる。
お昼を過ぎた時間にこの賑わいならば相当潤っているのだろう。
流石辺境とはいえ王国の中核都市エテルナだ。
「ほい!これもオマケだ、持っていきな。」
美人は得をする、の化身は串肉を咥えながらまた何か貰っている。
さも当然の様にお礼も言わず、ただ微笑むだけの対価として捧げられる貢物と言う名のオマケの数々。
その笑顔から、内面と外見の致命的乖離は伺うことが出来ないのだから当然か……
はっ!?
殺気が首筋に触れてきた。
残念師匠は僕が失礼なことを考えると何故かすぐ分かる様です……
改めて見ると、僕より十センチ低い百六十八センチの高身長に、赤髪赤眼の整った顔立ち。
流石エルフの血を引くだけのことはある、神秘的な美しさだ。
彼女は人間との混血であるハーフエルフなので、エルフ特有の耳の特徴が無い。
その上、純粋なエルフの白く透き通った少し無機質な感じとは違い、人の温かみを携えた質感が、冷ややかな眼差しと薄い唇に柔らかさを加え、単なるクールビューティーに収まらず、その魅力をさらに引き立てる。
要するにエルフと人間の良い所を併せ持っているのだから、ほぼ無敵だ。
更にどこに収まっているのだろうと思えるほど良く食べるが、スレンダーな体形は出会った頃から変わらない。
もう少し胸があれば完……
◇
目覚めると薄暗い部屋のベッドの上だった。
窓から差し込む金色の光が掛けてある二人のマントを照らし、夕方であることを教えてくれる。
どうやら意識を刈り取られた後ここに運ばれた様だな……
「レオ、君は私の身体に欠点があるとでも言うのか?」
甘い花の様な香りが鼻腔をくすぐる。
あの日から常に僕の世界に漂う香りだ。
懐かしくもあり、艶めかしくもある甘美な香りを携えた主が衣ずれの音と共に起き上がる。
甘いささやきと香りに誘われ彼女を見ると、胸に毛布を当て露出した肩にかかる美しい赤髪をけだるそうに搔き上げる。
「し、師匠……」
「こういう時はルナと呼んでくれと、何度も言っているのだがな」
髪を掻き上げる仕草は彼女の癖。
普段髪に隠れる耳と首筋が露わになり、携える笑顔と髪の動きが、艶やかな芸術を生み出す。
「ルナ……」
「ルナ……」
「この。ばかルナ!!!」
スパン!
魔導具ハリセン「魔女狩り」を振り抜く!
「いたっ!」
「何してくれてんじゃ!
往来で人の意識を刈るな!」
「人前じゃ無ければ良い……」
「良い訳あるか!」
コメカミをこう。ぐりぐりと……
「簡単に人の意識を刈るな!毎度毎度、防御結界を簡単に乗り越えて来るし、唐突だし!
何もしてないだろが!」
「私の胸を見た」
涙目になりながら訴える。
「あの目はバカにした目だった。胸が大きければと言う目だった、違う?」
潤んだ目で見上げられる。
この圧倒的攻撃力……
「えっと、ごめんなさい?」
僕の視界が暗転した。
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