3話・出生の秘密

 あれからブラットとフェリアは、シェイナルズの城下町を出てディクス村のブラットの家に来ていた。

 ブラットの家は、村の西北西の端の方にあり、二階建てのこぢんまりとした建物だ。



 ここはブラットの家の客間。二人の眼前には、ブラットの父親であるガルド=フレイがいる。

 そしてフェリアをみたあとガルドは話を切り出した。


「ほぉ〜、遅いと思ったら女を連れてくるとはな」


「親父、これには……」


「……で、お前、何者だ?」


 そう言われフェリアは驚く。


「それは、どういう事でしょう? 貴方には、私が何にみえているのですか?」


「親父どうしたんだ? まるでフェリアが……」


「ブラット。お前、神と契約したわけじゃないだろうな⁉︎」


「ガルド、まさかとは思っていましたが」


「俺が、何者か分かったようだな。流石は女神だ」


 そう言ったあとガルドはフェリアを睨みつける。


「まさか、以前の俺の時のようにブラットを利用するつもりじゃねぇだろうな? だとしたら、そうはさせねぇ‼︎」


「いったい、何を言っているんだ? 意味が全然わからない」


「そう、ガルド。貴方には、言いたいことがあります。もし神がブラットを見捨てていたら、そのまま死んでいたのですよ」


「ブラットが死んでいた、って……それは、どういう事だ⁉︎」


 そう聞かれフェリアは、城下町で何があったのかを話した。


「……ガルド。貴方は、ブラットを守って来たつもりだったかもしれません。ですが、あまりにも大事に育て過ぎました」


 フェリアはブラットをみたあとガルドに視線を向け更に話し始める。


「そう、戦いからわざと遠ざけてしまった……。ただ、そのことと今回の件とは別なのですが」


 瞼を閉じ少し考えたあと、目を開きブラットに視線を向けた。


「先程、ブラットにも話しました。全世界と、その中心にあるブラットの運命が異常に乱れているのです」


 フェリアはそう言いながらガルドをみやる。


「ガルド、貴方ならその意味が分かるのではないのですか?」


「なるほどな。アイツが動き出した可能性が高いってことか……」


「そこまでは定かではありませんが。流石は、英雄王ガルドですね」


 フェリアはニコリと笑い再び真剣な表情になった。


「ど、どういう事だ? 親父が英雄王って、」


「フゥ、お前をみていると本当に俺の子供かって思うんだが」


「ブラット、私は言いましたよね。貴方は、魔導師たちの王となるはずだったと」


 それを聞きガルドは驚きブラットに視線を向ける。


「ちょ、ちょっと待て⁉︎ ブラットが、魔導師たちの王ってどういう事だ?」


「私は、運命の女神フェリア。そして世界や人々の運命を管理し見守ってきました」


 そう話していると、フェリアの表情が曇り俯いた。


「ですが……。ブラットが王となることを、邪魔する者がいるらしいのです」


「そのためか。神はブラットに契約させて、女神であるお前にブラットを守護するようにと……。なるほどな」


「ちょっと待ってくれっ! あまりにも唐突過ぎて、何がなんだか分からない」


「ブラット。お前は少し黙って聞いていろ。これは……」


 そう言いかけたがガルドは口を閉ざしてしまう。


「ガルド、まだ真実を話さないつもりなのですか? このままでは運命が乱れ、それを元に戻すことができなくなってしまいます」


「クッ、なんでだ⁉︎ 俺は望んで英雄王になったわけじゃねぇ。それに、フェリア。お前は知ってるんだろう? ブラットの母親が誰か」


「親父。母親って……」


 そうブラットが言うのをガルドは遮る。


「ブラット……お前の母親は、魔族の女王となるはずだった女だ‼︎」


「えっ⁉︎ 今なんって……母親が魔族。そんで親父が英雄王。それって、いやそもそも、あり得ないだろう。普通そんなの……」


「普通ならそう思うだろう。だが俺は、英雄王と言う立場を捨てお前の母親であるカトレアと結婚した。と言っても正式にではないがな」


 ガルドは寂しい表情になり俯いた。


「そう、私たちにはみえませんでした。ブラットから貴方のことは、しかしカトレアの子供であることは分かりました」


 フェリアは少し間を置き再び話し始める。


「また神も同じだったのです。分かりますか? ガルド、これがどう意味するか」


「アイツなら、それができるって言いてぇのか?」


 そう言うとガルドは、フェリアから視線を逸らした。


「確かに魔族であるカトレアの兄のクレイデイルなら、運命の操作もしくは俺とブラットを引き離すことができる」


 ガルドは窓の外に視線を向ける。


「だが、アイツがそれを望むとも思えねぇ」


「では他に、心あたりがあると言うのですか?」


「あると言えばある。俺が英雄王の立場を放棄した時に、しきりにあの人は俺を引き留めた。なんでだか分からねぇがな」


 そう言うとガルドは真剣な表情でフェリアをみた。


「それはもしや、大賢者ドルマノフではありませんか?」


「ああ、その通りだ。だがなんで引き留めたのかは、未だに理解できねぇ」


「分かるような気がします。恐らくは、みえていたのかもしれません。ガルドとカトレアの子供が、人間にとって脅威となるかもしれない姿が」


 そう言われガルドは俯き床の一点をみつめる。


「だとしても……」


「ガルド。貴方は、わざとブラットに魔法も剣も教えてきませんでした。本当は、気づいていたのではないのですか? 何か秘めた力が存在することに」


「確かにそうかも知れねぇ。だが俺自身、もう争いをしたくなかった。ましてや子供に、俺の二の舞を踏ましたくなかった」


 ガルドは頭を抱えた。


「俺は、かつて神と契約し世界を救ったが……それでも俺は孤独だった」


 そう言い溜息を漏らす。


「そんな時にカトレアと出逢った。彼女は魔族とは思えないほどに心が澄んでいて、俺の心をも救ってくれた」


「そうなのですね。そういえばカトレアは、今どうしているのですか?」


「カトレアはブラットを産んで、しばらくして俺が家を空けている間に魔族の追っ手に捕まった。生きていれば、魔族領土にあるキリア城に監禁されているはずだ」


 それを聞きブラットはガルドに詰め寄る。


「母さんが生きてる⁉︎」


「ブラット、生きていると言う確証はねぇ。だが仮に生きていたとしても、魔族領土の中では手が出せねぇ。俺は英雄王を捨てた男だから余計にだ」


 そう言うもなぜかガルドは二人と目線を合わそうとしない。

 そう真実を全て話していなかったからだ。

 フェリアはそれに気づくも黙っていることにした。


「……。では、そろそろ本題に入りたいのですが」


「俺は反対だ‼︎ だが、神がブラットを救った。ってことはだ。あ〜、仕方ねぇ。世界の終わりはみたくねぇ。ただブラット、お前はどうなんだ?」


「……一度、死にかけた。それに色々と聞かされ頭がパニックになりそうだけど、俺にしかできないならやりたいと思う」


「はぁ、お前は誰に似たんだ? お人好しの大馬鹿だ! だが一つだけ言っておくが、やるからには投げ出すな! 俺は掴んだ物を手放した。だが、後悔はしてねぇ」


 そう言われブラットは頷く。


「俺は弱い。だけど、これから強くなる。そして原因をみつけて、間違った運命と世界の運命を元に戻す」


 ガルドは椅子から立ち棚の奥にしまってあった自分の剣を取る。するとブラットの目の前にくるとその剣を渡した。


「親父いいのか? こんな大事なものを」


「ああ、今のお前じゃ使い熟せないかもしれねぇ。いやそもそも剣士なのかは分からねぇ。だが、とりあえず持っていろ。何かの役に立つかもしれねぇしな」


「では、ガルドも認めてくれたことですし。明日ここを出てレベル上げを兼ねながら、旅に出ることにしましょう」


 フェリアがそう言うとブラットは頷いた。

 その後ガルドは不安そうな顔になりながらも、ブラットに気合いを入れ奥の部屋に入る。

 そしてブラットとフェリアは、しばらく話をしていたのだった。

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