5話〜黒いローブの女《後編》

 ハクリュウは剣を構えた。


「ほぉ……やっと、やる気になったようだな。では行くぞっ!!」


 アリスティアが魔法攻撃を仕掛けようとした瞬間。


 素早くハクリュウは動く。


 そう、剣を両手で持ち左足を一歩前にだした。そして腰の重心を落し右に捻ると、やや右後ろよりに刃を向ける。それと同時に弾みをつけ、すかさずアリスティアの懐に入った。


 《秘剣 猛牙疾風殺!!》


 そう叫び、疾風の如く薙ぎ払う。すると、獣の如き刃がアリスティアを襲った。


 それに気づくもアリスティアは避けきれず、右脚を斬りつけられて深手を負う。


 ハクリュウはその攻撃で倒せたかと思った。


(流石にゲームのように、すんなり行くわけないよな。やっぱり……)


「危なかった。流石だ白き英雄! 今日の所は、私の方が分が悪いようだ。では、そろそろ退散するとしよう」


 アリスティアは、部屋から出ようとする。だが、あることを思い出した。


「そうだった。お前の名前を聞いていなかったな」


「こんなことをしておいて今更、名前って……意味が分からない」


 そう言い一呼吸おく。


「だけど名前ぐらいなら、教えても問題ないか。俺は、ハクリュウだ!」


 そう言うと、ハクリュウはアリスティアを睨みつける。


「それで、この状況で逃げるって? 俺に戦い挑んで、火つけて逃げる。それって、どういう事だ!?」


 ハクリュウは、剣を鞘から抜こうとした。だがアリスティアは、魔法で剣を一時的に抜けなくする。


「今は、まだだ! お前の実力が、どれほどのものか知りたかっただけなのでな」


 そう言いアリスティアは、嬉しそうに微かに笑みを浮かべる。


「ここは退散し、また改めてお前を倒しにくる。まぁせいぜい、誰かに倒されないように……首を洗って待っていろ! では、さらばだ!!」


 そう言うとアリスティアは、窓から飛竜に乗り飛びたってしまった。


 ハクリュウは、ただ呆然とみていることしかできずにいる。


 そして我に返ったと同時に、アリスティアにやられた左腕が痛み出した。


 すると、シエルの声と共に扉を叩く音がしてくる。


「ハ、ハクリュウ様!? どうなされましたか?」


 そして扉が開き、シエルが部屋の中に入ってきた。


「やっと開きました。今、大きな音がしましたが何かあったのでしょうか? それと、扉は開かず……心配しました」


 そう言いシエルは、ハクリュウの左腕をみる。


「はっ! その左腕は、どうされたのですか?」


「ああ、大丈夫……かすった程度だから。ただ何者か分からないけど、アリスティアとか云う黒いローブの女に襲われた」


「アリスティア?」


(どこかで、聞いたような気が……)


 シエルは下を向き考えていた。


「なんとか、殺されなかったけど。狙われた理由は、なんとなく分かった。だけど、なんで殺さなかったのか? その意味が、分からない」


 ハクリュウは、俯向き考え始める。


 するとシエルは、ハクリュウの傷口をみた。


「これは……早く治療しないと。私の治癒魔法で、治しますね」


 そう言いシエルは、ハクリュウの左腕の傷口付近に手をあてる。


 《治癒召喚魔法 シルフのささやき!!》


 そう呪文を唱えるとハクリュウの前にシルフが現れた。


 そしてシルフは、傷口の辺りで静止しする。その後、傷口に息を吹きかけた。するとハクリュウの左腕の傷は、徐々に塞がっていく。


「これって、凄い魔法だ。ってことは、まだみたことのない魔法や武器とか技なんかも……あるんだろなぁ」


 そう言いながらハクリュウは、これからのことを思い浮かべる。


「俺は魔法が使えない。だけど知らない技とか覚えられたら、もっと強くなれるんだろうな」


 ハクリュウは、さっきまで不安と驚きで大丈夫なのかと思っていた。だがそれらを打ち消すかのように、新しい物に出会えると思いワクワクしている。


「ハクリュウ様、そのアリスティアなのですが。何か言っていませんでしたでしょうか?」


「そういえば、あのお方がとか……俺の実力を知りたいって言っていた。それと殺すとか殺さないとか、訳が分からないこともな」


 そう言いハクリュウは、その時のことを思い返した。


「それに俺が右脚に傷を負わせると、退却しようとしていた。だから、更に攻撃しようとしたんだ。でもアリスティアの魔法で、剣が抜けなくなってな」


「そうなのですね。やはり、ヤツらの手先かもしれません。そうなると明日、できるだけ早くここを出ましょう。そして、領主様にお会いしないといけません」


「そうだな。そいつは俺が狙いだった。とりあえず、この国で何が起きてるのかも気になるし。それに俺も、もう少し強くならないとな」


 ハクリュウは、真剣な顔でシエルをみる。


「今日は、もう何事もないかもしれません。ですが、万が一という事もあり得ます。心配ですので、やはり同じ部屋で寝させて頂きたいと……」


「だっ、大丈夫だと思うから。き、気持ちだけ受け取っておく! だからシエルは、隣の部屋で寝て大丈夫だからな」


 慌ててハクリュウは、シエルを部屋から押し出した。


「でも、それでは私の気持ちが。でも……そうですね。心配ですが……ではお言葉に甘え、隣で寝ることにします。何かありましたら、呼んで下さいませ」


 申し訳なさそうにシエルは、そう言いハクリュウをみる。


「あっ、うん。そうだな……何かあったら起こすよ。じゃ、おやすみっ!!」


 ハクリュウはシエルを部屋から出した。すると、慌てて扉を閉める。


(ふぅ流石に、女性と同じ部屋はまずいよな。いくら本人が良くても……)



 ★☆★☆★☆



 その頃、ホワイトガーデンのとある森林にアリスティアはいた。


(……あのハクリュウは、思っていた以上の存在になるかもしれない。ふぅ……それにしても、避けきれたと思ったが。とりあえずポーションで回復しておくか)


 バッグからポーションを取り出して飲んだ。


(あのお方に、ご報告しなければならない。だがあと一人、確認する必要がある。そっちが、最優先となるな)


 そう言い地面に横になる。


(さて、今日はここで野宿をする。そして明日の朝、早く向かうとするか)


 アリスティアはその後、眠りについた。


 そして翌朝アリスティアは、あと一人の下へと向かう。



 ★☆★☆★☆



 一方ハクリュウとシエルは、朝早くあかね村を出て旅立ったのだった。

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