第81話

写真をとって感想を残す、そうしないインフラ店が夜の立ち呑みにも必要だ、コーヒーやサンドウィッチだけでない、ホルモン串が毎週末の常時として作業を生むだろう、野暮なつぶやきなど、わざわざ重くして足を遠ざけることはない、近い間柄はわざわざニュースにしない。


短い時間が食事の決め手だ、長長と伸ばして一日を少なくすることはない、時に追われる若かりし現代人の気性で、安く早く合理を済ませる、貴人らしいゆとりはない、鷹揚に口をもぐもぐ喋れない、するどい目で周囲を見回し、できるような素振りをするだけだ。


外でも箱でも、好意を持ち、欲しいと思う陽気な装いは、反して自分に持ちにくい、誰彼にも楽しく接して笑いの絶えない人だかりは、親和の体現として目を惹きつける、ところがそれを自前のものにすると考える前から、遠い星の光として向かうことも思われない。


テラス席のテーブル拭きにレコードされた、懐かしい情感だ、ポイントの定まらない意識は、若い子の歌らしいレーザービームにカテゴライズされる、いや同年代か、狙いが合い、次に逸らして外気を半分に含む、秋もまだまだ残暑の心持ちだ。


関心がまどろみの中でうつむいている、表面はそのまま排斥を現す、生まれた世界の違いのせいか、それとも努力でラインをかき消していくのか、水から陸へあがる息苦しさがともなう、皮膚が乾き、鰓が閉じていく、採光の切れる線を見ながら、だいぶ拒絶する。


ふと思うのは目の前の表紙に、人形にポートレートを手始めに、千年近く前の歌に、命は死んでから長いのではないかと、寸時に気づく、それらはありふれてあるようで、選ばれし稀だと、生きている時こそ平等に近づいている、日射しが明るいと、儚さがいやましに強くなってくる。


秋とイタリアは鮮明に重なり合う、太陽の直射は真夏の陰を過ぎ越して、白ワインの輝きが淡い黄色の思いを募らせる、光は憂愁と哀愁を立ち上らせて、熱だけでないひややかなパッションが悲劇の速さで迫り来る、それは古典のドイツではなかった、ブーツの形に含まれた強靱な人間性だった。


ショッピングセンターと高い線路に挟まれた一角は、カフェとしての景色の良さを持たない、二面を開かせる大きなガラス窓は、閉息する建物の都会的密閉を眺めさせるのみ、それでも人人は午前から多く集まっている、過ごす時間は外になく、勉学読書の秋の風情に目は内にひそんでいる。


それほどやる気にみなぎっているわけではない、それでもよく働いた週の休日を貴重として、先週に置き去りにした続きを仕上げたいと意気込んでいる、ところが達さない、目覚めて早く秋を手に入れても、気分だけが順調で文は動いてくれない、そんな時は待つしかないと、昼もまだ遠い朝を垣間見る。


羽織のいる朝ながら、店内はそれよりも冷たい風を送っている、日中の熱気の先取りだろう、そんないるかといつもつぶやいてしまう、夏のテラスは冷房に閉じこもる人を尻目に閑散としていたが、そろそろ外光外気のバランス良さが人を動かすことだろう、他人と異なる動線ながら、今は重なる頃合いだ。


他に影像を借りてばかりの感想において、単語は厭きて使用される、そこに打ってつけの仲間が彷彿された、前も忘れた言葉だ、調子を様子見るより、弾倉を調べるべきだった、略取できない腕力で、どうにかこうにか考量するのみだ。


運動選手に限らない好不調を、腹に知るか、おそらく関係はない、満ち欠けのバイオリズムは男にもあるか、眼球が全身を支配している、虫また虫の線を引くのに、形はつかめず虚空を見る、そんな大層なものではない、ただまとまりつかないだけ。


いついつぶりの雨だろう、降り出して三分に連日としていやけがやって来る、汗とのさわぎ、固まらない髪の毛のたれなど、ひさびさの匂いに道路を振り返ったのはつかの間だ、うすうすにもならない湿気のきらいに、目を細めて浮誇とする。


雄勁とは程遠い、相補に欠けた孤独好み、謬見を改めることをせず、一歩と言わない深謀があったなら、こうも立場を汚損することもなかったはず、横溢するは身勝手のみ、人のありがたみなどとても、随喜できることはありえない。


手を伸ばして敏活に、面白いと思って芸させる、公然の前で、轟然たる怒りは外に出ない、内にしまわれ措定されることもない、物の表面は傷つかず、癒合も見えない目は閉じて暗澹としたまま、一つとさえ闡明はされない。


初対面の予感は自身の勘の鈍さ、口から湧き出す言の数数は、対面を瞞着させる、その不躾な汚らわしさは淫奔なほど、耳を塞いでも破って届く臭さは荊棘よりも濃い、もはや巡歴はない、身動きを蓋然に力をためる他ない。


とても忘失などないと対象を見ていたが、しょせん慟哭にもならなかった程度だ、ただし芸域は広げられた、むしろ再開の力を加えてくれた、我が身への立言はとてもならなかった、消えてしまえば行動も対偶としてさめるだろうか、そうはならない、そんな繊弱ではない。


主我にかく、秋に深めて愁殺はなく、洞見をやぶさかに道義心を刺し抜く、得る物なく顕現して、対する苦悶に止揚されることはない、省けない気質をあくまで固守するか、常の視座は自分で自分を見続けている。


バリウムがうずくまる、初秋最後の晴れ空に、ひまが気を抜けさせる、下剤いらずにだらだらと、バナジウムは縁を染めて銀つやを絵出していた、発光はおそらく曇りなく窓の内に反射させている、ゆるむ腹に今日の夜は、反応しないことを音楽に。


敢為する力をいつ備えたと思ったか、繊巧なわざなどあるはずもないのに、軽重の区別もついていない、識見ははからずも身についていない、確証を一つとして得られずに、空無のかけらでも考えられたなら、わずかな人生を凄絶に置けただろうか。

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