その7
第4戦は、第2戦と同じように始まった。ルコ達が都市内にいる事が確認できたからだった。
都市内にいるルコ達の車目がけて、猪人間達は隊を4つに分けて迫った。ただ、一つ違ったのは正面に対する隊の動きだった。前回は不用意に近付いたために中央を突破され、その後、引きずり回される事となった反省を踏まえて、距離を取っていた。そして、今回はうまく包囲下に置けると思った矢先にルコ達に動きがあった。
「射撃開始!」
瑠璃の号令の下、正面の猪人間の部隊に攻撃を開始した。ただし、前からではなく、後ろからの攻撃だった。
実は目立つように都市内にいた車はルコ達のものではなく、何でもやるといった玲奈達の車だった。つまり、玲奈達を囮にして、ルコ達は潜んでいた場所から飛び出して敵の背後に回り込んだ事になる。
完全に不意を衝かれた格好になった正面の猪人間達は壊乱に陥り、動きが取れないでいたところを正確な射撃で次々と倒されていった。
「すごいのじゃ。予想通りの展開なのじゃ」
遙華は銃撃しながら驚いていた。
ルコは事前に猪人間達の動きの予想を何パターンか考えており、そのうちの一つが今回当たっていた。当然、その時のこちらの動きも予め決めていた。
「前進!敵との距離をもっと詰めて」
ルコがそう指示すると車は前進し始めた。壊乱している部隊の殲滅を図るためだった。それを見て、囮の玲奈達の車もルコ達に向かって進み出した。これで、完全に挟撃の形が整った。
ただし、これで玲奈達への半包囲体制が崩れたわけではなかった。
玲奈達が動き出したのに合わせて、もう一台援軍としてきていた車が潜伏先から顔を出して、敵の左翼部隊を攻撃し始めた。
攻撃された敵の左翼部隊は一時的に混乱状態に陥ったが、ルコ達より攻撃の質という点では劣っていたため、なんとか持ちこたえるとともに、この車への攻撃に転じる動きに出た。だが、この動きにより、玲奈達への包囲体制はほぼ瓦解した。
この間にルコと玲奈達は挟撃した正面部隊を壊滅させた。
「次は敵の左翼部隊に攻撃!」
ルコは次の指示を出した。この時、たった2台であるが味方と連動できるとこうも簡単に戦いが進められるという感覚をルコは持ち始めていた。
もう1台の味方はややぎこちない動きだが、敵の左翼部隊を牽制して引きつけていた。そこに、正面部隊を打ち破ったルコ達と玲奈達の車が側面を突く形になった。
この側面攻撃に敵の左翼部隊は耐えきれずに、一気に崩れ去ってしまった。
崩れ去った敵をルコ達が掃討中に敵の残りの部隊が合流した。その結果、ルコ達3台と残りの部隊が正面から対決する形になった。
「膠着しましたね。やや有利というところでしょうか?」
瑠璃は銃撃しながら現状をそう表現した。
敵はこちらを包囲する事を止めたため、半近くに減っていたがまたまだ分厚い戦力で真正面から衝突するように攻撃を仕掛けてきた。ただ2部隊を壊滅した時のように派手ではないが、少しずつだけど敵に打撃を与え続けているのでルコは問題ないと考えていた。
「今は下手に動かない方がいいわね。隙を衝かれかねないわ」
ルコはそう言いながら現状維持を選択した。
「敵はまだまだ多い。爆弾を使用しますか?」
突然玲奈からインカムを通じて提案があった。玲奈達にとっては現状は不利に思えているのだという事が想像できた。多分大多数の人は現状は不利と判断するのだろうが、ルコ達は特に気にする必要があるとは思っていなかった。この辺はかなりのずれがあった。
「爆弾で都市機能を破壊するのは得策ではありません。ここは我慢比べです。気持ちを切らせたら負けますよ」
ルコは冷静な口調でそう反論した。これまでの戦いで身に付けた有無を言わせない雰囲気がルコにはあった。
「分かりました」
玲奈はルコの雰囲気に押されたのか、短くそう答えると反論はしなかった。玲奈の方が遙かに年上だったが、こういった戦闘の経験ではルコ達に軍配が上がるのだろう。いつの間にか、ルコ達はそんな存在になってしまっていた。
ルコ達は距離を保ちながら攻撃の手を緩めなかった。距離を保っていたので、ルコはほとんど、いや、全く戦力になっていなかったが、援軍のお陰で火力はいつもの5倍あったので、問題がなかった。
数で勝る猪人間達も奮戦していたが、都市の建物が邪魔をしていて数の有利を生かせないでいた。また、包囲するように動けば、正面の戦力が薄くなり、突破されかねない状況だ。いずれにしろ、ジリ貧なのは猪人間達の方であった。
「味方がいるという事は心強いものなのじゃな」
遙華は銃撃しながらポツリと言った。普段なら移動しまくり、やっとの事で敵を振り切っていたが、今回は戦術的な後退を繰り返すのみで、互角に戦えていた。2台加わっただけでこうも違うものかという事は遙華だけではなく、他の三人も感じていた。
「ん?急速前進!」
しばらく膠着状態だった戦闘に変化が見られた瞬間、ルコは突撃を指示した。
恐らく猪人間達が撤退するかどうかを迷った瞬間で、動きが止まってしまった。それを目ざとく見いていたルコは一気に形成を有利に展開するために突撃をしていった。
ルコ達の車はすぐに突入していったが、他の2台はやや遅れた。この辺の連携は今一だった。しかし、この時の連携はルコは全く期待していなかったので問題がなかった。
動きが止まったところに、タイミング悪く突撃された猪人間達は対応が遅れ、被害が増していた。ただ、やられる一方ではなく、何とか態勢を立て直して反撃に転じようとした時に、
「全車、右折!一旦離脱!」
とルコが指示を出して正面から消えたため、猪人間達は反撃の機会を失った。
右折したルコ達は再び距離をとって攻撃を再開しようとしたが、猪人間達は当初の3割強まで撃ち減らされていたのでこの機会に撤退を始めた。
「やっと引きましたね」
瑠璃の言葉は戦いの終わりを告げるものだった。少なくともルコ達四人にはそうだった。
「追撃して、都市外にて爆弾で殲滅します。よろしいか?」
玲奈はインカムを通じてルコにそう言ってきた。どうやら、玲奈達はルコ達とは違う見解のようだった。
「了解しました。援護します」
ルコは玲奈の申し出を承諾するとともに、指揮権を返上した。
「よろしくお願いする」
玲奈はそう言うと、ルコ達と他の1台を率いて、追撃を開始した。
「いいの?」
恵那は心配そうにルコに聞いてきた。
「ここまでは私達の流儀でやらせてもらったけど、ここからは全体の戦略の問題だから玲奈さんに任せるのが正しいと思うわよ」
ルコはそう答えたが、もちろん乗り気ではなかった。
「まあ、少しでも敵の兵力を削りたいのじゃろう」
遙華もルコ同様あまり乗り気ではなかった。といより、ここにいる四人は全員乗り気ではなかった。それでも、ルコ達は玲奈達に付いて行った。
都市外に出ると、玲奈達は一斉に猪人間達に爆弾を投げつけ、爆音とともに完全に殲滅した。容赦ないやり方だった。
「凄い音じゃったな」
遙華はそう言ったが、ドン引きだった。
「そうね。遙華はあの爆弾とかいうやつに興味あるんじゃない?」
恵那は遙華にそう聞いた。珍しいものに対して食い付く遙華が見られなかったので聞いてみた。
「ない訳ではないのじゃが、なんじゃかな……」
遙華は言葉を濁すように言った。敵を倒すのには最適かもしれないが、あれだけ簡単に殺してしまったのでちょっと引いてしまうのだろう。
「まあ、武器っていうのは強力になりすぎるとあまり気持ちいいものじゃないからね」
ルコは遙華の気持ちを代弁するように言った。
「そうね。ルコの世界にもあの爆弾ってやつはあるの?」
恵那は今度はルコに聞いてきた。
「ええ、あるわよ。けど、もっと、とんでもなくおぞましいものもあるわよ」
ルコは恵那に暗い口調でそう答えた。その口調を聞いた他の三人はぞっとする戦慄を覚えた。
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