第15話 テスト返却
「ねえ、雨音どうだった?」
私の友人、
少し釣り上がり気味の瞳に漆黒のショートヘアー、身長は百六十五センチと女子の方では高めで胸も大きい。
そんな彼女の全身は存在感を主張しており、クラスでも目立っている。
私が手を伸ばしても届かない所にいる存在だ。
「まあ、良かったかなあ」
私は照れくさそうにして言った。
今日はテスト返却日なのだ。
そして、今返ってきた科目は一番自信がある国語、九十三点だった。
「どれ、見せて」
雪華は私の手元から解答用紙を奪い取ると、それを見る。
「うわー!
「もう、勝手に
私はそんなことを言っているが、実は内心嬉しい。
だってこの雪華にすごい、と言われたのだ。
雪華は容姿端麗でスタイルも抜群。そして、勉強も出来るし、運動も出来る。まさに彼女は才色兼備。そんな彼女に認められた気がして気分が良くなるのは私だけではないはず。
「まあまあ、実はこの点数が見られて嬉しい気持ちもあるでしょ?」
図星だ。
めちゃめちゃ嬉しい。
国語は今まで八十点止まりだったのにようやく今日、その壁を突破することが出来た。
達成感は半端ない。
私はそんな心情を隠すように、雪華が持っている解答用紙を勢いよく奪い、言う。
「ないことはないけど盗らないでよ」
「別に減るものじゃないし、いいじゃん」
「良くないよ!」
そんなやり取りを交わしているが、私は一つ気になったことがあった。
「雪華は何点だったの?」
私の点数を褒めてくれた雪華だ。だから私よりも点数は低いはず。
成績優秀の雪華より国語いい点取っちゃうって私本当に天才!
しかし、
「九十六点だよ」
――え? 雪華の点数は期待を裏切るようなものだった。
じゃあなんで私の点数褒めるの。そこは「私なんて九十六点だよ!」って力強く自慢するとこでしょ。
「そ、そうなんだ」
心の中でそんな呟きをしながらも不機嫌気味に私はそう言った。
「あれ、機嫌損ねちゃった?」
そしたら、憂いを帯びた目で雪華は心配してきた。
損ねたよ! 折角、学年一位を守り続けている雪華に一科目でも点数勝ったって期待したのに。
「別にー」
でもその感情を表に出すのはあまり良いものではないと思ったので、隠しておいた。
そんな時、誰かが私たちの方へと向かってくる。
「雨音と雪華、国語の点数どうだった?」
私の友人である
大きな瞳を隠すように眼鏡を掛けており、雲のように透き通っている髪は天然パーマ。それが可愛らしさをさらに引き立たせている。
そんな彼女がいつもの温厚な声音で訊いてきた。
私はそれに対して自慢を含めて言う。
「私は九十三点!」
どうだ、すごいだろ。
しかし、そんな自慢も隣にいる雪華と比べては大したものではなかった。
「私は九十六点」
まさか三点がここまで重要だとは思わなかった。あそこ某ミスしなければなぁと、思ってしまうのは仕方のないことだ。
愛花の視線が私から雪華に移り、雪華から私に移り、私たちを交互に見た。
「二人ともすごいなあ。私は八十六点だよ」
やったー! 愛花に勝った!
前回の国語のテストは愛花に負け、「今度は絶対に勝ってやる!」と、発言したのは今でも覚えている。だからリベンジを果たすことが出来て、素直に嬉しい。
「まあ、次があるよ!」
そう言って、私は愛花の肩をポンポンと叩いた。
だが、そんな喜びは次の時間、二時限目に一気に打ち消された。
「雨音どうだ······え?」
――自信のなかった数学が返却されたのだ。
私の様子を見た雪華は呆然としている。
「どうしたの!? そんな死人みたいな顔して机にべったりしちゃって!」
「べ、別に。ちょっと数学があまりにも······」
「そんなに悪かったの?」
私は訊かれたので首肯した。そしたら今度は雪華が私の肩を叩き、
「まあ、次があるよ!」
と、言ってきた。
それはさっき私が愛花に放った言葉。今度は私がそれを言われることになってしまった。
くそー、悔しい。
「雪華は何点だったの?」
「え、私?」
「うん」
「私はね······百点!」
同時に雪華の解答用紙も見せられたので、その点数についての疑いは刹那の間に消えた。
私のテンションはさらに下がっていく。
それは友人に負けた悔しさだけではない。
「雪華······」
私は静かに呼びかけた。
「何?」
私の声のトーンの低さに少し戸惑っている雪華。
私はそんな雪華に対して言う。
「私、雪華のこと一生恨むかも······」
それに対してゾクッとした表情を、見せた雪華。
「恨みから包丁とか持ってくるのやめてね!」
流石の私でもそこまでする予定はないので、
「『多分』持ってこない」
と、返事をした。
そこから時は経ち、全科目のテストは私の元へと返ってきた。点数を並べてみるとこんな感じだ。
国語:九十三点
数学:不明(記憶から消したい)
理科:不明(記憶から消したい)
社会:八十二点
英語:七十一点
まあ、数学と理科以外はそこそこ良かった。
晴斗に「どうだった?」と、訊かれたとしたら「そこそこ」と、言うことにしよう。
別に理系科目の分を文系科目がカバーしてくれているので、嘘を
そんなことを考えながら学校の校門を出てしばらく歩いているともう家に着いた。
「おかえり」
いつも通り晴斗が迎えてくれた。
今の私には出来るだけ話し掛けて欲しくないので、無視して階段を登っていく。
そして、自室へと着き、椅子に座る。
何とか現実を受け止めるために数学と理科の解答用紙に目を
「あー! もう何で一番時間を掛けたこの二教科がダントツで一番悪いのー!」
やはり、現実を受け止めるにはもう少し時間がいる。
神様、どうかこれらの解答用紙を百点にしてください、と願うほど、今の私はどうかしている。
「晴斗は兄だからまだしも守さんと玲香さんに点数訊かれたらどうしよう······」
事実、晴斗は昨日私に言ってきた。
「今度の日曜にまた守と玲香が来るからな」
と。
だからもうすぐ会うことになる。もちろん、会いたくない訳では無い。だが、こんな点数を守さんと玲香さんに言うことが大変恥ずかしくて申し訳ないのだ。
それにあの二人は時間を
だから日曜日、私はあの二人には謝らなければならない。
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