5 第七皇女は餌を持ち込む


魔術塔は皇城の西の離宮の一角に存在し、普通に歩いていくとかなり時間がかかる。

そこで近くにいた風の精霊にお願いして魔術塔まで一気に運んでもらった。


精霊にお礼として魔力をあげて別れた私は、塔の最上階へ続く階段を登っていた。


塔の中は灯りの魔具が一定の距離を保って置かれているおかげで明るかったが、物々しい雰囲気が漂っていた。

そのまま登り続けること数分。


階段を登り切った私の前を一際頑丈そうな扉が出迎えた。

この魔術塔の最上階は皇城のどの部分よりも頑丈な造りになっており、たとえ火事が起きたり地震が来ても崩れないのだとお姉様が自慢していたっけ。

目の前のこの頑丈な扉も防音仕様になっていて、外からの音は決して内部には響かない。


だから今ここでノックしたところで中には響かないのだが。

とりあえず礼儀として扉を二回叩きノックする。


当然内部にノック音は響かないので扉もあかない。



そこで私はまず一歩下がり扉の斜め右に備え付けてある魔具に向かって声をはりあげた。



「レスティーゼ・エル・ヘルゼナイツが参りましたわ!お姉様に用事がありますの!通してくださいませ!!」



--ドシャッ、ガラガラ……ガチャン!!


何か物が雪崩になって落ちたような効果音の後にカチャリと扉が開く。



「あれ?レス?今は誕生日パーティのはずだよね?どうしたの?」



中から白銀の髪を無造作にひとつにまとめ、つなぎ服を着た女性が現れた。

全身が埃まみれで普段は白い綺麗な顔も黒く汚れている。

チラッと見えた扉の向こうの部屋は、予想通り物が落ちたようであちこちに雪崩の被害の残骸が散乱しているようだ。

メルランシアお姉様はその残骸を気にもとめてないようで突然の私の訪問に首をかしげている。

これが一国の皇女だと言われてどのくらいの人が信じるだろうか。誰も信じないわね……。



「お姉様……相変わらずですね……」



まずは用件より片付けが先だわね……。

私はため息を着きながらやれやれと首を振った。













「あー、助かったわぁ。ありがとねレスティーゼ」

「……それほどでも」



精霊に手伝ってもらいながら魔術を駆使して一気に雪崩の残骸を片付けた私に、お姉様はひたすら感謝を述べる。


部屋を掃除する間にお風呂に入ってもらったため、メルランシアお姉様は本来の美しさを取り戻していた。

つなぎ服は全てまとめて洗濯に出したため、今はゆったりしたデザインの水色のドレスを身にまとい、洗ってサラサラになった白銀の髪はポニーテールにまとめ背に流れている。


うん、こうしていると皇女らしく見えるわ。


感心していると、少し青みがかった銀色の瞳をこちらに向けながら二の姉様は私に問いかけた。



「それで、パーティを抜け出してどうしてこんな所に来ているの?レスティーゼ」

「セイルに任せて出てきたのですよ。それよりお姉様。お姉様が作ってくださったあの録音と録画の二機の試作魔具を早速活かせそうな機会チャンスがありそうなんですけれど」



訝しげに私を見ていた二の姉様はこの一言で目の色を変えた。



「なんですって!?早速?テストできるの?いつ?ちょっと、その話詳しく聞かせて頂戴レスティーゼ!!」



銀青の目をランランと輝かせ鼻息を荒くする第二皇女の様子を見て私は内心でほくそ笑んだ。


--よし、釣れた。

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