269.遠城帝2


 自分たちがいた和室から何段もの階段を上がり、ようやくたどり着いた広い部屋の奥には目的である人物が座っていた。

 そして、その部屋の両脇には遠城帝の側近や遠城帝の家族が向き合うように座り、その後ろに護衛の為に太刀を佩いた武士たちが控えていた。

 さらに、こちら側の護衛としてレナの率いるメランオピス隊所属の一個分隊が完全武装状態で待機していた。


 部屋に着いたはいいものの、どうすればいいのかわからなかった俺はしばし周りの顔色をうかがう。

 しかし、皆こちらをただ見返すだけで誰も口を開かなかった。

(え?なにこの空気……、このままでは埒が明かないええい!儘よ!)


 俺は立ち止まっていれば誰かが案内でもしてくれるのかと思っていたが、それは甘い考えだったようで誰もこちらに救いの手を差し出すものはいなかった。

 恐らくこれは俺が他国の王であるから、皆そのことを配慮してあえて口出しをしなかったのかもしれない。


 ともかく、このままでは埒が明かないと思った俺は渋々足を進める。

 メリアも俺と同じく何をすればいいのかわからなかった様子で、不安そうな顔をしながら俺の左腕にしがみついていた。

 それでもメリアは、女王として、また国の代表として恥の無いようという思いで、その不安を表に出さないように何とか取り繕うように努めていた。


(メリアがこんなに自身がなさそうにしているのは珍しい……、というよりいろんなところが当たってますよメリアさん!)


 そんな俺の気持ちなどお構いなしにメリアは俺に抱きついてきていたが、彼女の顔をふと見ると不安だけでなく緊張もしているようで、表情もだいぶ硬い。

 遠城帝の目の前まで来た俺たちは一先ずその場で立ち止まった。


「……、コンダート王国国王陛下並びに女王陛下、遠路はるばるよくぞおいで下さいました、そして我が娘を無事に送り届けていただき感謝いたす。それとここまで来るまでの非礼どうかお許し下され、もう少し早くお伝えしていればあのようなことは怒っていなかった、本当に申し訳ない、これについてはお詫びのしるしとして少ないですが4000両をお受け取り下さい…………、お二方ともどうやらこの場が慣れていないご様子、そんな状態では話もできますまい、ここはどうか気楽にやりましょう。ささどうぞそちらの座布団に楽な姿勢で」


 遠城帝は俺たちが困っていることにようやく気付き、こちらに声を掛けてくれていた。


「あ、ああ、そうさせてもらうよ(ほら、メリアもそっちに座って)」

「え、ええ」


 とりあえず、俺とメリアは遠城帝の言う通りその場に用意されていた座布団に腰を落とした。


「砲撃の件だが、あれは自分たちも警戒が甘かったこともある、何もそこまでしなくてもよいのだが?」

「いや、あれはこちらの落ち度、どうぞお受け取りを」

「それなら、もらっておこう」

「すぐに持ってこさせますのでしばしお待ちを……、では、早速議題に取り掛かりましょうか?」


 それだけでなく、彼は長旅で疲れているであろうと思ってくれたのか、一見強面で怖そうな印象のその顔を、しわくちゃの笑顔に変え俺たちにフランクに接してくれていた。

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