263.縦須賀港入港
場所はかわって縦須賀港
港といってもその多くが浜辺のようになっていて、その浜辺の部分は漁民が使い、それから少し離れた位置に5カ所の150mぐらいの石でできた桟橋がありそこは言わば軍港のようなところになっていて、比較的大型の船が何隻も係留できるような構造になっている。
しかし、今日に限ってはそんな縦須賀港には一隻の船もいなかった。
「もうそろそろか?」
「ええ、送られてきた書簡には“午の初刻(だいたい11時頃)に縦須賀へ”とありますので、もうしばらくすれば」
「それにしては、遅くないか?すでに巳の初刻(だいたい9時頃)を過ぎているんだぞ?あと数刻でつくとはさすがに思えないのだが?」
「ええ、しかし、この千代姫様より届いた書簡には確かに……」
そんな閑散とした縦須賀港に、今か今かとソワソワしながら出迎えとして待っていた遠城家の旗本の伊勢崎十史郎という人物がそこにはいた。
彼が何故そんなにも落ち着きがないのか、それは彼がこれからくる使節団にいち早く渡さなければならない情報を携えているからである。
さらに、今回来る使節団が以前に来たデスニア帝国やイスフェシア皇国、テレン聖教皇国の使節団とは違い大規模で想像もできないほどの大きさの船で来るということで、恐怖に似た感情が彼をそうさせている。
また、それを見た配下も自分らが使える主君が恐怖を感じているのを見て、今にも逃げ出しそうになっているものもいた。
「来たぞー!使節団が来たぞー!」
港にある物見やぐらから、物見をしていた兵が浜辺にいる伊勢崎十史郎らに大声で使節団が来るのを発見したことを知らせていた。
「来たか?」
すると、徐々に水平線に巨大な黒い塊が何個もこちらに向かってきているのが見えた。
「あ、あれが、本当に使節団なのか……」
「ここから見ても、随分と大きく見えるのは、き、気のせいでしょうか?」
書簡であらかじめ知らされていたとは言え、想像以上に船が大きかったので皆一様に驚いていた。
そしてさらに驚かされたのは、その速さだ。
彼らからする標準の船は基本的に風の力や潮の流れを利用して航行しているので、たとえ見えたとしてもそこから到着まで状況にもよるが早くても1日はかかる。
それが頭に入っている彼らからすると、今向かってきている黒い物体はそれをはるかに超える速さなのだ。
影が見えてから1時間。
すでに目の前は彼らにとってはあちらにしては小さいとはいえそれでも大きいさまざまな船で埋め尽くされていた。
出雲国海軍の水先案内人によって縦須賀港付近に停泊した第一次出雲派遣艦隊は、先ほどの事件が起こった後ということもあり非常に警戒していた。
全ての船の主砲や艦載機銃が陸地に向けられていて、上空には戦闘ヘリや戦闘機が完全武装状態で飛び回っていた。
そんな中、上陸部隊の第一陣として海兵隊武装偵察連隊第一武装偵察大隊所属のAAV7A1とEFVが次々と縦須賀の浜に向かっていた。
AAV7A1(通称アムトラック)はアメリカ海兵隊や最近では陸上自衛隊水陸機動団にも配備されている、水陸両用装甲兵員輸送車だ。
これに限ったことではないが、AAV7A1は地上だけではなく海上等の水の上を浮上航行することのできるもので、通常時はウォータージェット推進で航行(約13㎞/h)するのだが、履帯(戦車と同じような“キャタピラ”)の回転でも航行が可能になっている。
AAV7A1は乗員3名のほかに兵員を25名乗せ、12.7㎜重機関銃(M2)一基と40㎜自動擲弾砲一基によって武装されている。
これに同行するEFVはAAV7A1の後継機になる予定(今はこの機体の計画は無くなっている)だったものだが、ずんぐりとした見た目ではっきり言ってカッコよくない(個人的には)AAV7A1に比べ、このEFVはまるでM2ブラッドレーのように戦車と似たようなシルエットをしていたので採用した。
そんな安直な理由だけで選んだわけではなく、実際問題として主兵装として30㎜機関砲を搭載しているため、上陸時兵員への直接火力支援として大いに期待でき、さらに水上航行速度が46.3㎞/hあるので即時展開したいときに有益だとも判断したからだ。
EFVは乗員3名のほかに兵員17名を搭乗させることができる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます