260.琴音


 そのあと、ある程度気になっていたことを聞き終えたのか、彼女個人の話になっていた。


 彼女は出雲国海軍第一艦隊を率いる提督(コンダート王国海軍での階級制度でいうと海軍中将相当)、であり館浜家女当主として原山崎城とその周辺地域一帯(500万石)を治めている。



 館浜家は代々遠城家に仕えていて、元々海軍(少し前までは水軍)が強い家なので今は遠城家の海軍奉行として活躍している。

 海軍が強いのは、館浜家領内に海に面する場所が多いことと、沿岸部から少し離れたところに島を持っていたため海軍が発達したようだ。


 彼女の見た目は20代前半だが、実際は700年以上生きているようで(遠城家9代目時代から遠城家の家来として仕える)そんな超高齢で長く当主を務める彼女だが、そのことを館浜家の人々や館浜家の家来たちは誰も咎めるものや貶めようとする人はいなく、むしろ館浜家をこれまでにわたって守ってきた守り神的存在として崇拝しているぐらいのようだ。


 何故700年も生きているのか。

 それは彼女が妖狐であるからである。


 今は人と同じ見た目をしているが、気が抜けたときや居城内では妖狐(九尾)の姿をしている。

 それには理由があって、妖狐は出雲国内では非常に珍しく、その存在自体幻とまでされているほどで、捕らえて売れば非常に高値で売られる為その姿を隠しているのである。


 その話をした後、琴音はその証拠にという感じに、瞬時に自分の姿を妖狐の姿に変えて見せた。


 その姿に皆一様に驚いた反応を見せた。

 俺以外の人間は、獣人などの亜人の類を日常的に見て来たこの世界の人たちにとっては何ともないはずだが、彼女の場合そのどれにも当てはまらない魅力や珍しさがあった為、皆驚いていたようだ。

 対する俺は皆が思う以上に魅力を感じ、さらに元居た世界で伝説として存在するような妖狐が、実際に目の前に現れたのだから感動さえ覚えていた。


 そんな妖狐の特徴は、基本的な外見は人と大差ないが、頭頂部に狐の耳、伸縮可能な爪(刀をはじくほど固い)尾底骨付近から狐の尻尾が生えていて、毛の色はすべて金色か(金狐(きんこ))銀色(銀狐(ぎんこ))、妖狐はこの尻尾の本数が多ければ多いほど魔力や戦闘力が高い、最大で九本、ほとんどが銀狐で、金狐は非常に稀。

 そして彼女は金狐の中の九尾なので妖狐の中では最強である。


 そんな彼女はこれまで縁談や求婚をされたことが数え切れないほどあったが、興味を持つ”雄”がいなかった為、今も独身を貫いている。


「そ、そうだったんですね、そんな年上とは知らず無礼な言葉遣いをしておりました、大変申し訳ございません」


 話を聞いてみれば700年以上も生きているということに驚きと焦りを感じた俺は、琴音に対してこれまでの非礼を詫びた。

 恐らくここにいた皆が同じような感情を抱いているだろう。

 それこそ、人は見かけによらないとはまさにこのことだろうか。


「いやいや、何を言うか、国王陛下殿、我にとっては貴方様こそまさに英雄であって希望でもあるんだ、そんな貴方様がそんなに謙遜することはない、今まで通り普通に話してくれ。ここにいる皆様もどうかお気をなさらずに、皆さまのおかげでこの我も五体満足でこの場で話す機会を得られたのだから、これ以上多くを望むまい……、ただ……、」

「ただ?」


 琴音は途中までは明るく朗らかな表情で話していたが、話の最後にはそれが嘘だったかのように急に声のトーンを下げさらにうつむいていた。


「お願い!この国を救って!この私も養母も全てをあなたに捧げるからどうかお願い、願わくは帝国をつぶして!」


 そんな彼女の気持ちを代弁するように、養女である信子は大声で俺たちに訴えていた。


「わかりました、そのお気持ちしかと受け取りました、それに我々も最善を尽くしましょう、そうですよね両陛下?」


 その信子の必死な訴えにヴィアラはいち早く反応し、同意を示していた。


「ああ、そうだな、捧げるかどうかは置いといて、こちらとしても最善を尽くすように約束するよ!」

「そうね、たださっきも言ったけど、その為にはしっかりと話し合いをしてからね?」


「ああ、わかっている、その為には我も信子もなんでもする、だから、どうか、頼む」

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