237.正式営業開始!
翌朝
この後大事なセレモニーがあるので俺は第一種礼装に着替え、メリアは正式な式典用に用意していたという城が基調のドレスに着替え、出発までの少しの間ではあるが優雅に朝食を済ませたメリアと俺は、今日のメインイベントに向かう。
アルダート駅に着くと、駅前のいたるところには、まだ夜が明けてから間もないというのにすでに多くの人で賑わっていた。
何故なら、今日から一般市民も鉄道を利用できるようになるからである。
各改札口の前には一気に駅構内に人がなだれ込まないように、規制線が張られ、その前には鉄道武装警備隊第一警備師団第一大隊隊員たちによって警備され、物々しい雰囲気になっている。
ここに集まってきている人の多くは町中に貼られていた、コンダート王国国有鉄道正式開業とアルダート駅に隣接する商業ビルの開業のチラシを見てきている。
そんなこともあって、この人だかりの中には鉄道(電車)とはどんなものか気になってきている人もいるだろうし、駅に隣接する商業ビル内にはどんなお店が入っているのかということに興味を抱いている人もいるようだ。
そしてアルダート駅の一番大きな改札口である、中央改札口のステンドグラスと鉄骨でできたアーチ状の天井には色とりどりの帯が飾られていた。
中央改札口の装飾を見ながら、この後行われる記念式典の会場についた俺たちは、開会式の時間より一足早くついてしまったため改札のすぐ脇に設置された駅長室へと足を運んでいた。
会場は中央改札の真正面に設置されて、その上には大きな金色のくす玉があり、そして床一面にレッドカーペットが敷かれていた。
そして、俺にとっては写真や動画でしか見たことのない、テープカット式で使う長い紅白色のテープリボンまで用意されていた。
駅長室に入ると、そこには明らかに緊張した面持ちでいるアルダート駅のアネッサ駅長がいた。
彼女は執務室の中心にあるソファーに座り、平静を装うためか書類を片手にコーヒーを飲んでいたが、その手は誰が見てもわかるほどに震えていて、コーヒーを机の上から持ち上げようとしたが手の震えで持てずにこぼした跡まである。
アネッサがここまで緊張しているのには、国家にとっても国有鉄道としても非常に重要な式典を任されているという重責や彼女の人生の中で今までにないほどの人が集まる場所でのスピーチ等があるからだろう。
それ以外にもこの国にとって重要な施設の管理をしなくてはならないというものもあるだろう。
「アネッサ、失礼するよ?……、ひょっとして緊張してる?」
「へっ、陛下!いててっ!」
声を掛けるまで俺が来たことにどうやら気づいていなかったようで、急に身だしなみを整えようとしたのか何かをとろうとしたのか、とにかくすごい勢いで立ち上がったので、その反動で脛を机の角にぶつけ、しまいにはそのままソファーに倒れこんでいた。
「大丈夫なの?」
「い、いえ、おぉ、お気になさらず。い、今何かお持ちしましゅね」
アネッサはテンパりすぎて噛みがちに俺たちにそういうと、ぶつけた足をかばいながら壁際にある机に向かい、ガラスのポットに入ったお水をコップに注ごうとしていたが、手が震えていてなかなか水が入らないどころか、ガチャガチャと音を立てるばかりだ。
二つ分注ぎ終わったコップを至って真剣そうに持ってくるが、本人は本気でそう思っていてもコップには少しの水しか入っていないだけでなく、俺とメリアの前に持ってくる前にすでにその中身はなくなっていた。
「あれ?もうない!?も、もう一回持ってこなくちゃ」
「も、もういいよ、アネッサ?足もがくがくだよ?」
本人はいたって真面目にこの行動をしているはずなのだが、その手や足はがくがくに震えたままで、再びポットのある場所まで戻り水を注ごうとするが、今度は震えすぎて、コップに注ぐどころかバシャバシャと床にただただこぼすだけだった。
「アネッサ!アネッサもういいって!本当に、あーもう服もびしょびしょじゃないか、とりあえず着替えて来なよ……、あの、その色々見えちゃってるしさ」
コップに注ごうとしたときに、自分自身に水をかけてしまっていたようで、彼女の胸元透けたワイシャツからは、ピンク色のブラジャーがくっきりと見えていた。
「ひゃい!」
「アネッサ、声も上ずってるわよ、とりあえず着替えて来なさい!」
一先ず彼女を隣にある更衣室に向かわせ、濡れた上半身を着替えてこさせた。
この後の本番前にこんなことで体調を崩されてはたまったもんじゃない。
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