64.パンツァーフォー!!

 

 敵は依然としてこちらの前方に陣取ったまま動きを見せない。


「第二・三及び機械化歩兵大隊は指示あるまで待機」


 俺は連隊全体に命令を指示すると、自身の部隊に対していよいよ攻撃命令を発令する。


「連隊長より第一戦車大隊大隊長、これより敵陣に向けて前進を開始せよ」

「こちら大隊長、了解」


 通信を聞いたベルは一拍置いて行動を始めた。

「大隊長から第一戦車大隊各車、戦闘開始!先頭に続いて全車前へ!!」


 ベルの搭乗する10式が先行し、俺の搭乗する10式はその二番手につく、その後ろに綺麗に戦車が一列に並び、最初は敵を左に見ながら斜めに進んでゆく。


 敵との距離が3000mに入ってきた頃に、今度は左に回頭し敵を右手に見ながら進む、ここまで来ても敵は動く様子を全く見せない。


「大隊長から第一戦車大隊各車、これより砲撃を開始する……目標前方歩兵上空、弾種榴弾、大隊集中行進射、撃て! 」


 ドドドドドドドドドドドッ!ドドドドドドドドドドドッッ!


 周囲に砲撃によるすさまじい衝撃を発して、第一戦車大隊所属の戦車は進みながら一斉に中心敵歩兵の少し上に向けて主砲の44口径120㎜砲を放った。

 砲撃してから、数瞬後に敵歩兵の真上で爆発が起きた。


「……命中!撃ち方待て!」


 この敵の頭上に砲撃する方法は曳火砲撃と言って、砲弾を空中炸裂させ砲弾の破片を水平より下方への広範囲に飛散することによって、地上に展開している歩兵部隊を殺傷させることができる攻撃方法だ、特に今回のように歩兵が多数展開している状況にはもってこいだ。


「連隊長より大隊長、爆発確認、全車右に回頭し次弾撃ち方はじめ!」

「大隊長了解、目標変わらず、各個射撃せよ!」


 今度は敵を左に見ながら、一方的に砲撃を加えていく。


 目の前では、爆心地から少し離れたところに位置していた、盾を装備していた歩兵たちが爆風と破片によって吹き飛ばされ、爆心地中心部では、もはや人間の姿形すらない状況であろう。


 そんなこともつゆ知らず、次々に砲弾の雨を降らせていく。

 さすがの敵も、大きく蛇行しながらではあるがこちらに向かってくる脅威に対して進撃を開始した。

 中央に展開していた歩兵は文字通り消滅してしまった、その為両翼に展開していたまだ戦闘能力が残っている歩兵がこちらに動き出した。


「連隊長より、第二・第三大隊長へ、進撃を開始せよ、なお第二大隊は右翼方向へ、第三大隊は左翼方向へ向かえ」


「第二大隊リレイ了解、panzer vor!!」


「第三大隊ユリーシャ了解、各車 Go ahead!!」


 俺は動き出した敵に対して即座に反応し、後方に待機していた第二・三大隊に指示を飛ばす。


「連隊長より、第一大隊へ、すぐさま後退し元の位置に戻れ!」


「大隊長了解!大隊各車、目標右後方敵歩兵、弾種榴弾、大隊集中後退行進射、撃てッ!」


 一列に並んで射撃していた10式戦車は、砲塔を敵に向けたままその場でいったん止まり、くるりと車体の向き後ろに変えてすぐさま最大速度で後進しながら射撃を開始する。


 最高速で敵右翼側に向かったレオパルト2A6の第二戦車大隊は、後退する10式と交差するように進む。


「連隊長から第二大隊長へ、敵に対して平行に車列を組み一旦停止して一斉射せよ」


「第二大隊長了解!私たちを放置したことを後悔するんだね!全車停車、榴弾で一斉射!Feuer!」


 ドドドドドドドドッッ!ドドドドッッ!


 横にズラリと並んだ60門もの55口径120㎜砲が一斉に弾を放つ。


 その砲撃に敵は、違うところから急に現れたことに驚き、さらに攻撃してきたので完全に浮足立ってしまった。

 その後も第二大隊は次々に弾を撃ち込み、しまいには砲煙で敵の所在がわからなくなるほどであった。


 左翼に回ったユリーシャ率いる第三大隊は、M1A2エイブラムスに積んでいる車載機銃を含めた火器を総動員して無数の砲弾の雨を敵の頭上に降らせ壊滅させていった。


「よし!最後の仕上げだ!連隊長より第四機械化歩兵大隊、敵中心地に侵攻し残党を叩け!」


「第四大隊長了解!全車突撃!前へ!!」


 最後まで待機していた89式装甲戦闘車隊を前進させ、もとの部隊がどれなのかわからなくなってバラバラに散ってしまった歩兵を“処理”させる。


 第四大隊は火器による交戦距離になると90口径35㎜機関砲や車載機銃・M2重機関銃を撃ちまくり、奥から突撃してきた騎兵隊に対して痛撃を加える。


 敵地中心部に到達すると、乗車歩兵を降車させ、各歩兵に持たせていたHK416 によって殲滅戦と捕虜回収を始める。

 第四大隊が敵中心地に着くころには、敵の大規模な組織的な抵抗はなりをひそめ、散発的に戦闘が起こるだけの状態になっていて、残るは敵の本隊のみとなっていた。




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