54.話し合いへ
「今度はこれを使っていこうと思うんだけど、前のハンヴィーは俺が動かしてたけどこの後だれかがこういうのを使っていくと思うから、今後のこと考えて誰かに操縦してもらおうかと思うんだけど……」
そういうと、ミントは手を上げ志願してきた。
「陛下!この私に是非やらせて下さい!」
「おおっ!そこまで言ってくれると嬉しいな、けど他のみんなはどう思う?」
「いいのではないでしょうか陛下、そうして頂ければ我々の本隊での教育も出来ましょう」
「そうだな私もそう思うぞ、それに私は“戦闘”がしたいから、これの操縦とやらは見送るよ」
「陛下!いざとなればこのシルヴィアもやらせていただきます!」
「良し!そうなれば急ではあるけど、これに乗って今から少しの間慣らしを行った後、残存兵力の殲滅もしくは敵司令官の捕縛を行う!」
89式の後ろにある観音開きの兵員室につながるハッチを開けながらそういうと、さっそく兵員室にはキューレ、ミレイユ、サクラ、エレザが乗車する。一方90口径35㎜機関砲のある砲塔には車長として俺とシルヴィアが砲手を務め、操縦手は志願してきたミントが乗り込む。
ここでも全員との意思疎通を図りやすくするために、全員にインカムを装備してもらう。
ミントにはLiSMの中の「異世界人専用マニュアル」というものの発動によって、操縦を覚えてもらっていた。
このLiSMの中の「異世界人専用マニュアル」を作動させることによってどうやら他の兵器も同じように瞬時に操縦や扱い方がその教えたい人にわかるようになっているようだ。
(これを早いうちに知っていたら……まぁ、教えるのが好きだったからいいけど、この後毎回わざわざ教える必要がなくなったってことだ)
現に89式のエンジンが動き車内には明かりがつく
「エンジン問題なし!操縦系統問題なし!動けます!」
ミントはLiSMの能力のようなもので得た知識によって問題なく動かすとこに成功した。
「了解!これより出撃する!前へ!」
「「「「了解!」」」」
城から出ることはすでにローレンスに「敵を見つけて捕まえてくる」と伝えてある、その時ローレンスもついて行くと言ってくれたがそれでは万が一の時に対応しにくいと思ったので残した、おそらくエレシアにもノア経由で伝わっていると思う。
俺たちは昨夜敵が向かっていった北の方角に89式を走らせた。
89式を動かすミントは良い調子に乗ってきたようで、鼻歌交じりに最高速度の70km/hで何もない草原を走らせる。
その様子を砲塔上部にある車長用キューポラからレンズを通して前方を監視する。
しばらくすると、前方に小さくまとまる馬に乗った集団が見えてきた。
「前方に集団を発見!速度落とせ!」
「了解」
ミントはギアを落とし、速度も落とす。
「あれは敵ですか?」
俺の隣に座るシルヴィアも射撃用に使うスコープを覗き見る。
「わからない、でも方角的にいてもおかしくはない」
「陛下!あの集団はよく見るとこっちに向かってきています!」
「何だと!?」
集団はこちらを視認したのか、先ほどより速度を速めてこちらに向かってきていた。
「陛下、如何なさいましょう?」
「停車してしばらく様子を見てみよう、ミント、停車させてくれ!」
「了解!」
数十分後、そのままその場所に停車しているとあちらがだんだんと近づいてきた。
俺とシルヴィアは砲塔上部のハッチを開け双眼鏡で監視していた。よく見ると先頭には、降伏や攻撃しないことを意味する白旗を掲げながら向かって来ていた。
「陛下、あれは敵の部隊に間違いありません。昨日チラと見た指揮官らしきものも見当たりました」
「そうか、どうやらあの集団は白旗を掲げているところを見るに、戦う意思はなさそうだな」
「ただ、そうと見せかけて襲う可能性も帝国軍ならあり得ますので、万が一に備えましょう」
「総員戦闘準備!弾を込め!エンジンはアイドリング状態をキープ、いつでも動けるように!」
「「「了解!」」」
さらにそこから数分後集団の兵たちの様子が見れる距離まで接近してきた。
するとその一団から護衛を引き連れた現場指揮官と思しき兵が89式の至近にまで来た。
そしてその中の隊長格の女性が、キューポラから顔を出していた俺を見上げて、こう言ってきた
「我々は帝国軍ベルキア・リレイ中将閣下直属部隊である!こちらは戦う意志はない!そちらは王国軍の者と見受ける、そちらと閣下が話をしたいそうだ、こちらにご同行願えるか?」
「わかった、今行く、ただ下手な真似はするなよ。少しでも攻撃の意思を見せたらどうなるかわかるか?」
元居た国であれば、89式一両では脅しにもならないが、この世界であれば違う。
「ああ、誓ってそのような事はしない」
攻撃の意思がないと確認した俺は89式装甲戦闘車をその部隊の指揮官が待つ場所へと進ませた。
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