第二十八話~RPGの敵キャラの気持ちを考えよう!~

 ラーメンブームが去り、俺が普通に料理を始めた辺りのことだった。

 サクレが唐突にRPGがクリアできていないことを思い出し、ゲームをやり始めたのだ。

 今日はサクレがゲームを始めて、10日目となる。

 ゲームをやりながらでも食べられる手軽な料理を作りながら様子を見ていたのだが。

 あいつ絶対に寝てないよねっ。

 無理しすぎだろう。たかがゲームだろう。

 まあ俺も、だいぶ前に150時間連続プレイなんてこともやっていたが、それはそれ、これはこれだ。


 というか正直な話、そろそろ会話したい。ボッチ寂しい。

 いつもならサクレがおいしいと言いながら料理を食べてくれるのだが、ここ最近ゲームに集中しすぎて生返事ばっかりだ。

 今までこんなことなかったし、あったとしても俺も同じようにゲームをしていたから、そこまで気にならなかった。

 最初は旦那ってなんだよと思ったが、いろいろあって、気が付けば一緒にいるのが当たり前になっていた。

 なんだろう、この気持ち。これが、恋?

 馬鹿らしい。俺は考えを一蹴する。構って貰えなくて寂しいなーって気持ちが恋とか、馬鹿すぎるだろう。でも、食べてくれる人がいない料理ほど虚しいものはない。


 俺は「はぁ」とため息をはきながら、角煮を作ることにした。

 とりあえず用意した豚のバラ肉をいい感じのサイズにカットする。鍋に水を入れ、強火で沸騰するまで待つのだが、沸騰する前に、サクレがわめきだした。


「あーもう、なんで序盤の村のモンスターがこんなに強いのよ。なんで、なんで勝てないのっ」


 ちょっと待て、今日は10日目だったよな。え、何、まだ序盤なの。もうとっくにクリアしてもいいころだろうと思っていたが、序盤で躓いていたのっ!


 俺は呆れてしまい、カットした豚肉をなんでもできる力で呼び出した冷蔵庫にしまう。

 鍋にかけていた火を止めて、洗剤で手を洗った。

 ちゃんと火元確認と食材のしまい忘れがないか確認してから、ジュースの缶を持ってサクレに近づいた。


「お前、まだ序盤なの。そろそろクリアしてよ」


「だってだって、敵が強いんだもん。でもあれ、ダーリン、私のゲームクリアを応援してくれるの? え、ええ?」


「なんでそんなに驚いているんだよ。ここには俺とお前しかいねぇだろ。気になったって別におかしいことないじゃん」


「だってダーリン、料理のお話か仕事のお話しか基本してくれないし……」


 俺は今までのことを思い出し、首を傾げた。

 いや、お前からいろいろ言われて、なんやかんやで話していたような気がするのだが。料理と仕事以外の話をしていないとはどういうことだろう。だって、前にビューティフル・シャインの話とかしたし……。


「普通に話していると思うけど」


「え、あれ、ん? そうだっけ。そうだったような、違うような、あれ、あれれ」


「まあいいや、この話題やめようぜ。よく分からなくなる。それに、きっとお前の勘違いだろう。最近ゲームのやりすぎで、ボッチ症候群が出てき始めているんじゃないか」


「え、何それ怖い。病気?」


 ボッチ症候群は病気なのだろうか。ボッチ過ぎて寂しがりやになり、誰これ構わず特攻したくなる、また周りに誰かがいなかった場合、エア友達との会話や一人将棋、一人チェス、一人ポーカーをやって一人で二人いるように見せかけるような行動を取ってしまうことを、ボッチ症候群と言ったような気がするのだが、病気ではないだろう。


「いや、病気じゃない」


「なーんだ、じゃあ平気だね。それよりもダーリン。これ、こいつが強いのよっ」


「えっと、どれどれ」


 サクレが指さした敵キャラは、あの有名な青くてぷるぷるしていて、「僕悪いーー【自主規制】ーーぷるっぷるっじゃないよ」と言ってくるあれだった。いやこれ、序盤で必ず倒す奴じゃん。確かに、小説なら物理攻撃が聞かないというチート性能を持っているはずだが、序盤でも炎の魔法ぐらい覚えられるだろう。

 それ使って勝てんじゃねぇ。なんで苦戦しているんだろうか。


 俺が画面を見て呆然としていると、サクレが「これをね、こうするとね」と言いながら、ガンガン行こうぜの指示を出した。

 するとどうだろうか。画面には物理無効によりダメージが入らないという文字と、ミラージュマジックという、魔法反射の補助をかけるスキルの効果で魔法が反射されましたの文字が……。これ絶対序盤の敵じゃない。というか、物理無効のキャラに魔法反射の補助スキルは反則だろう。


 しかもさ、補助魔法をかけるキャラが別にいるのだが、スライムの身代わりというスキルのせいで攻撃が届かない。補助魔法は効果が切れる一ターン前に再度かけられて延長。敵のマジックポイントがなくなるまで耐えなければならないというのに、序盤のせいでスキルが足らず、あっさりと負けてしまう。コレ、勝つの無理じゃねぇ、俺もそう思ってしまった。


「ね、勝てないでしょう」


「これ、絶対に無理だろう。物理ダメージが入らないスライムに魔法無効の補助魔法は反則だろ。これ作った奴、絶対に馬鹿だ」


「でしょ、絶対に勝てないでしょう。ということで、私は考えたのよ。これがクリアできないのは、まだ相手の気持ちを考えられていないってね」


 ゲームなのにそんなの必要ないだろうと思った。だって、なんでゲームをクリアするためにゲームの敵キャラの気持ちにならなければいけないんだよ。これがもしリアルの戦争だったならば、いかに情報を手に入れて、相手の裏をかくべきかなんてことを考え始めるのだろうが、それをゲームに入れる必要はないと思う。むしろゲームでそれを行わなければならないとなると、ストレスが溜まってイライラしてくるはずだ。それはもう娯楽じゃない……。一部のゲームはやってるとイラついてくるものもあるが……。


「だから来てもらったのよ」


「は? 誰に」


「雑魚キャラ達に。先生っ! お願いしますっ」


 サクレが誰かを呼んだと思ったら、サクレの近くが突然輝きだして、俺の視界が白く染まった。

 光はゆっくりと消えていき、白く染まった視界が次第に通常の景色に戻っていく。

 気が付けば、サクレの後ろに三人? ほど変な奴らがいた。


「僕はスライムっ! 定番の雑魚キャラさ」


「俺の名はアークデーモン。雑魚キャラの代名詞さ」


「オラはウルフ。ゲームではあまり登場しないけど、小説で序盤によく死ぬぜっ」


「「「我ら、今回の迷える魂、雑魚キャラさん兄弟」」」


 ドンッと大きな音とカラフルな煙が立ち上がる。そんな景色を呆然と見ながら、俺は思ったことをそのまま口に出す。


「アークデーモンは雑魚キャラじゃないからっ!」


 だめだ、あいつの存在感が半端なさ過ぎて、やべぇ。冷や汗が出て来た。俺はこそこそとサクレに近づく。


「おい、こいつら何なんだよ」


「なにって、スライムとアークデーモンとウルフじゃない。ダーリンって馬鹿なの」


「馬鹿はお前だよ。え、何、お前一体何なの」


「ダーリンが何に怒っているのか分からないけど、今回の迷える魂よ。この雑魚キャラさん兄弟さんたちに協力してもらって、雑魚キャラの気持ちを理解するわ。そうすれば、あのゲームもクリアできるっ!」


 そこでドヤ顔はやめてくれ。

 にしても、アークデーモンが雑魚キャラか。一体どうしてそうなってしまったんだろうか。だってアークデーモンって悪魔の上位種だろ。そんなキャラが雑魚キャラなわけないと思うんだけど……。


「さぁ、皆、女神である私に協力しなさい。このゲームの敵キャラを倒すため、あなたたちの協力が必要なの」


「あの、一ついいですか」


「はい、なんですか、アークデーモン君」


「あ、えっと、その、女神様がやっているそのゲーム。作成者がうちの上司のデーモンロードなんですが……」


「そのデーモンロードがどうしたの?」


「その人、性格悪すぎて。まあその性格の悪さのせいで俺がいまここにいるんですけどね。ってそうじゃなくて、その性格の悪い上司のデーモンロードは、ゲームをやっている時に発生するイライラとした感情が大好物でして、そのゲーム、いろんな人に話しかけてしっかりと情報を聞き出さないとクリアできない仕様になっているんですよ」


「つまり、どういうことよ」


「今女神様がやっている場面、一定条件をクリアして手に入る、補助魔法破壊の矢を手に入れたら勝てますよ。それを手に入れるために、ゲームに関係なさそうな一般キャラにまで話に行かなければなりませんが」


「………………は?」


 サクレが威圧的にアークデーモンを睨みつける。それと同時にスライムとウルフの姿が消え失せた。一瞬ほど光ったので、転生されたんだと思いたい。一応確認メールをほかの神様に送ったら、すぐに問題なかったという回答が返って来て、ほっとした。


「ねぇ、私今すごく怒ってるの」


「え、あ、はい。その……うちの上司がすいませんでした」


「謝って済むことじゃないんだけど。これのせいでダーリンとの時間がたくさん奪われちゃったんですけど。私とダーリンがイチャイチャしてラブラブするはずだった時間、返して、早く返してよ」


 もはや八つ当たりである。というか、イチャイチャする気もラブラブする気もないぞ。旦那認定されているとはいっても、俺はそれを認めていない。


「あなたなんて、家計が苦しいのにニートの息子がいる家庭に生まれちゃえばいいんだっ!」


「ちょっ! それはやめーー」


 アークデーモンは光り輝いて、姿を消した。その転生先、マジで家庭が荒れてそうで、あのアークデーモンが哀れに思えて来た。

 サクレはいろんなことをやり切ったような表情をしながら額の汗を拭う。

 そしてゲームを消し去り、こちらに振り向いた。目が爛々と輝いている。


「ねえダーリン、一緒に遊びましょう、ちゅっちゅしましょう、イチャイチャしましょうっ!」


「ちょ、暑苦しいから抱き着くなっ!」


 サクレがゲームをやり続けている時、不覚にも寂しいと思ってしまった。だけど、今はこう思う。

 何もしてないかまってちゃんな駄女神が鬱陶しいぞ、此畜生っ!

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