再び眠る
益々訳がわからない。
これが夢なら覚めてほしいところだが、頬をつねる以前に腹部の痛みがリアル感満載であり、これは現実だと告げている。
「……限界だ」
頭が朦朧としてくる。
このまま再び意識が途切れるのではと思った瞬間、大きな音と共に勢いよく部屋の扉が開かれた。
「失礼します。ドン、医者を連れてきました」
部屋に入って来たのは、目覚めた時に最初に顔を会わせた30代前半とおぼしき男。
そしてその後ろから、白衣を着た50代くらいの男が部屋に入ってくる。
この白衣の男が医者か。
途切れそうな意識の中で扉の方を見ていると、白衣の男に続いて更に男が二人部屋に流れ込んだ。
心配する顔と、安堵する顔で口々に「ドン、意識が戻ったんですね」と声を掛けてくる。
近付いてきた白衣の男に向かって助けを求めるよう、オレは無意識に血で染まった手を伸ばしたその時──
「ひいぃ! あっ、も……申し訳ありません! 血が、傷口が開いてるみたいですので止血と……あああっそうだ、鎮痛薬も射たせてもらいますので、もう暫しの我慢を! 申し訳ありません!」
何故だか、この医者は酷く怯えていた。
その怯えように、こちらまで一瞬ビビるくらいだ。
おいまさか……怪我人を相手にするのが、初めてだなんて言わないよな?
大丈夫なんだろうかと、心配になりオレは白衣の男に目を向ける。
すると、すぐに相手の視線が逸らされてしまった。
その顔は、恐怖によって頬が引きつっているのが確認出きる。
医者の癖して血を見るのが恐いのかと思ったが、注射針で鎮痛薬を射つのも汚れた包帯を取り外していくのも手際が良い。
どうやら怪我人を相手するのには慣れているみたいだ。
でも何故だろうか、この医者とおぼしき男はずっと何かに怯えているように見える。
痛みがまだ引かないために、自然と眉間には皺が出来てしまう。
「……」
「ひいっ」
決して睨んでる訳ではないのだが、じっと白衣の男を見ていると段々恐怖する顔がより濃くなっていくのがわかった。
もしかするとこの白衣の男は、
不思議に思いつつもオレは声を絞り出す。
「あのさ、何をそんなに恐がってるか知らないですけど……こんなっ、状態じゃあ……オレは何も出来ないし……早いとこ治療終わらせてください」
事実オレは今、何も出来ない。
疑問に思う事は山程あるが、それは後で確認するとして……とにかく今はただ、大人しく治療してもらうしかないのだ。
だがオレが先の言葉を口にした途端、部屋の空気に異変を感じた。
医者の男は血で汚れた包帯を手に持ったまま大口を開けて固まり、他の男三人は目を点にして驚いてる表情をしてるじゃないか。
みんなして何をそんなに驚く事がある?
可笑しな発言をした覚えはないのだけれど。
オレはただ、早くこの痛みから解放されたいだけで……
──と、この時オレの意識はまた限界を迎える。
重たくなる瞼。強烈な眠気が襲う。
瞼が閉じて意識が遠退くなか、微かに耳に届く驚愕した声。
「エルモ聞いたか?ドンが敬語使ってたぞ」
「ぼくはドンが敬語を使うの初めて聞いたかも……」
どうやらドンと呼ばれている男は、敬語を使う事がないらしいな。
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