僕はヒーローなんかじゃない

ガチ岡

プロローグ

「星が綺麗ね――この地球ほどではないけれど」


 僕の隣で彼女はそう呟いた。


「そうだな」


 特にそれは僕に向けて言ったわけではなかったのだろうけれど、それでも僕はそんな風に返事を返した――僕も隣にいるという、そんな当たり前のことを僕は彼女に伝えたかった。


 空には一面の流れ星が降っていた。


 それはまるでようやく役目を終えようとする地球をねぎらうように星たちは皆この地球を目指して降り注いでいた。


 しかし、かたや彼女のそばで同じように星を眺めていた僕は、この奇跡のような光景よりも、隣で僕と同じように空を眺める彼女の方が――はるかに綺麗だと思った。


 月並みなセリフだけれど、そう思ってしまったのだから仕方がない。


 人生最後に見る光景がこんなに綺麗なもので本当に良かったと――心の底から思った。


 こんな景色を見ながら、そして隣にはこんなに愛しい『ヒト』がいる中で人生を終えられる僕はとても幸せなのだと思った。


「残念だけれど私はもうここにはいられないわ。そろそろ行かないと」


「……もう行ってしまうのか?」


「ええ、だってもう迎えが来てしまうもの。ねぇ健人、もしよかったら私の代わりに――」



「――あなたがヒーローになってくれない?」



 あのとき、あの最期の瞬間にあいつは僕にそんなことを言った――そして僕は今でもそれを未練がましく覚えている。


 それはきっと一生忘れることはない言葉で、これから先も僕の人生にずっとつきまとってくる言葉になるのだろう。


 僕はそんなあいつの最期の言葉に対して、



「僕はヒーローなんかじゃない」



 そう返したのだった。


 そしてその言葉を言ったことを、僕は一生後悔することになる。

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