第14話

ロウが背伸びして絵の方を見やると、ひまわりの絵が燃えている。




「なっ!」




 すると今度は、炎の塊が後方から飛んできて、客の真ん中に命中し、火の粉がはじけ飛んだ。




「ムロ、キョウコ!」




「こっちは大丈夫ですぞ!」




 弾けた炎が辺りに分散し、炎の壁となり地面から立ち上る。


ムロ、キョウコはその壁の反対側で、近づくことが出来なくなった。


ロウが叫ぶ。




「二人とも、非常口から脱出しろ! 俺もこっち側から脱出する!」




 客はパニックに陥り、四方八方に駆け出す。


そんな中、一人の大柄な男が、ロウの方へとやって来た。


ひげを蓄えた、ガタイのいい男。


手には、でかい銃火器が握られている。


口元から火が吹いており、ロウははっとした。




「火炎放射器…… お前がやったのかっ!」




「やっと見つけたで、火柱亮」




 男は関西弁で、明らかにロウに向けてその言葉を放った。




「火柱亮? 人違いだろ。 とにかく、お前を現行犯で逮……」




 警察手帳を取り出し、相手に見せつけると、クック、と男は笑い始めた。




「滑稽やな。 殺人鬼が今は警察してんのか。 忘れもせーへんで、お前の顔!」




 俺はおもむろに上着を脱いだ。


首から下にかけて、皮膚が焼けたような後が残っている。




「お前の本名は火柱亮。 火柱夫婦を殺した犯人、ファイアガンや!」




「はあっ!?」




 頭が混乱する。


目の前の男のセリフは、にわかに信じがたい。


自分の本名は火柱亮で、ずっと探していた親を殺した犯人、ファイアガンがロウ自身だと言い張っている。




「何を根拠に言ってやがる!」




「証拠なら、お前が持ってるで。 人差し指を俺に向けて、ファイアガン、つってみーや」 




「……!」




 ロウの心臓が早鐘を打つ。


まさか本当に、自分に炎の魔法が使えるのか?




「否定したいんやろ? はよ、試してみーや!」




 ロウは、恐る恐る人差し指を目の前の男に向けた。




「ファイア…… ガン」




 人差し指からメラメラと火の玉が形作くられる。




「う、うわあああああっ」




 その火球はどんどん大きくなり、目の前で弾けて消えた。




「わあっ、ワアアアアーーッ」




「これで証明されたな。 お前は有能な炎の魔法使いの息子で、ファイアガンを使って両親殺した後、自分の脳内の記憶を焼いて、東京に逃げてきたんやで」




「うそだ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ」




「面倒なんはこっからや。 炎の魔道書の在処、思い出してもらわんとなぁ」




 ロウは身動きが取れなくなった。


立ちくらみがし、その場に膝をつく。


男が火炎放射器を構える。




「さっさと思いださんと、ここにある美術品、全部燃やしてまうで」




 その時、背後からジュワッ、という音。


炎の壁の一部が無くなり、そこに見覚えのある亀が一匹。


その後ろから、キョウコの声がした。




「水の式神を使いました。 ロウさん、こっちに!」




 亀の口から、大量の水が吐き出され、火炎放射器の男を押し流した。

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