197章

アンは、ルドベキアが光のかべを飛びえて、この場から脱出だっしゅつしようとしていると思っていた。


壁を飛び越えるのに、無傷むきずではまないとは思うが、これでルドベキアだけでも生き残れると。


だが、彼の行動こうどうはアンが思っていたものとはちがった。


ルドベキアは、その身を押し付けて向かってくる光の壁を受け止め始めたのだ。


「ルド!? お前、何をやってる!? いいから逃げてくれ!! お前だけなら逃げられる!!!」


アンは声がれるくらいさけんで言うが、ルドベキアはその行為こういを止めようとはしなかった。


そんな彼を見たニコが、少しでも光の壁からとおざけようと、アンとロミー2人の体を引きずり始める。


「くっ!? おいニコ!!! お前も壁を飛び越えて逃げろ!!! ダメージは受けるかもしれないが、ここで死ぬことはない!!!」


アンは必死ひっし形相ぎょうそううったえたが、ニコは首を横にブンブンと振って彼女とロミーの体を引っ張り続けた。


アンが、ルドベキアとニコへ声をかけ続ける中、ロミーは何も言えずに、ただを食いしばっているだけだった。


「ルド!! やめてくれ!!! お前だけでも逃げてくれ!!!」


「うるせえッ!!!」


今まで何も言い返さなかったルドベキアが、突然怒鳴どなり返した。


止める光の壁でその身をがしながら、彼はアンへ言葉を続ける。


「てめえは……俺が“お前”って言われるとムカつくって何回言えばわかんだ!!!」


こんなときに何を言い始めるんだと、アンはルドベキアの真意しんい理解りかいできなかった。


そんな彼女にルドベキアは、さらに声を大きくして怒鳴りあげる。


「てめえは出会ったときからずっとお前お前って、何も変わりゃしねぇ!!! ホントムカつく女だぜ!!!」


「なら、そんなムカつく女なんかてて早く逃げろよ!!! ニコ、お前もだぞ!!! 早く逃げろッ!!!」


「同じくことをり返し言ってじゃねえ!!!」


「お前らが逃げないからだろう!!! もう私は……こういうのはいやなんだよ!!!」


アンは、もう仲間にきずついてほしくなかった。


マナ、キャス、シックスは、自分たちを逃がすために犠牲ぎせいとなってしまった。


これ以上はもう――と、彼女は目からなみだが止まらなくなる。


「うるせえぞ!! 無愛想むあいそ女ッ!!! どうせ俺が生きのこってもこいつには勝てねえ!!! だから、てめえらをかすほうをえらんだだけだ!!!」


「そんなの理由りゆうになるか!!! お前も見ただろ!? あいつの力を……あいつはみんなの能力が使えるんだ!!! たとえ私たちが生き残ってもクロエには勝てっこない!!!」


苦痛くつうで表情をゆがめるルドベキア。


光の壁のすさまじい波動はどうによって、彼の手はもうすでに原型げんけいとどめてはいなかった。


そして、トレードマークである頭にいていたバンダナもはじけ飛んでしまっていた。


そんなルドベキアへ、アンは泣きながら声をり上げた。


「どうしてそこまでする!? 早く逃げろ!!! 早く……逃げてくれよ……」


アンがうつむきながら力なく言うと――。


「どうせここで助かってもいつかは死ぬんだ。なら……死に場所は……ここがいい……」


ルドベキアのアンへ向けた声が、次第に弱々よわよわしくなっていく。


アンは顔をあげて、彼の背中せなかを見つめた。


きずつきながらも、けして心れずに、光の壁を止めるルドベキアのその背中を――。


「もういい……もういいよ……やめてくれよ……ルドッ!!!」


「うるせえ……俺は……俺は……」


ルドベキアは声は、次第に弱くなったかと思うと、突然――。


「てめえのことが好きなんだよッ!!!」


それがルドベキアの最後さいごの言葉だった。


彼はアンたちの目の前で、光の壁に飲み込まれ、消滅しょうめつしていく。


「ル、ルド……? ルド……ルドォォォッ!!!」


アンの呼びかけもむなしく、その声も光の壁へと飲み込まれていった。

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