163章

軍幕ぐんばくの中――。


1人の男が椅子いすすわり、片膝かたひざをついた兵士から知らせを受けていた。


兵士は自分で報告ほうこくしていながら、その内容を信じられないといった表情をしていたが、椅子に座っている男はどうじずにただしずかに聞いていた。


男の名はレコーディ―·ストリング。


この荒廃こうはいした世界で唯一ゆいいつ高度な科学力をほこる国ーーストリング帝国の皇帝だ。


現在げんざい、ストリング皇帝は軍を引き連れて反帝国組織バイオナンバーと交戦中だった。


戦闘は帝国側が優位ゆうい


何故ならば、使っている武器の火力が圧倒的あっとうてきちがうからだ。


弾丸をめて撃つ旧式きゅうしきの突撃銃では、帝国の使用する電磁波放出装置――インストガンには歯が立たない。


それに反帝国組織は、前の内部紛争ないぶふんそうでリーダーであるバイオを失っていたのもあった。


それらすべての要点ようてんにより、戦局せんきょくは帝国側が圧倒的に優勢ゆうせいだったのだが――。


「では、われらの城を取り返すことは、できなかったということかね?」


兵士の報告を聞いたストリング皇帝は、静かにたずねた。


それは兵士の伝え方が、非常に回りくどい言い方だったからだ。


あわててうなづき、YESと答える兵士へ、皇帝は質問を続けた。


被害状況ひがいじょうきょう将兵しょうへいたちの行方ゆくえ、民の安否あんぴ――。


訊かれた兵士は、もうわけなさそうに答えた。


ストリング城内にいるジャズ·スクワイアという少女兵の話によればと。


城下町じょうかまち半壊はんかい、リンベース近衛このえ兵長は戦死せんし、ノピア将軍とローズ将軍は行方不明。それとバッカス将軍をふくめた1万の軍勢がやぶれたということか」


ストリング皇帝は、このすさまじい敗退はいたいを聞いても普段ふだんと変わらない落ち着きを見せている。


片膝をついた兵士は、そんな皇帝がおそろしくてしょうがなかった。


それは周囲しゅういに立っている兵士も同じだ。


兵士たちがふるえている理由は、皇帝が何を考えているかわからないからだった。


ばつを受ける――いや、たとえ八つ当たりでも王がすることならばそれも受けよう。


戦えというならすぐにでもこのいのちささげよう。


だが王は兵に対して、けして激励げきれいすることも叱咤しったすることもないのだ。


いつも、どんなときも――。


いくさで勝とうが負けようが、ストリング皇帝の感情にらぎはない。


それは、まるで機械のようだと――。


兵士たちは、そんな皇帝に恐怖きょうふしているのだった。


何を考えているからわからないということが何よりも恐ろしい。


そのとき――。


軍幕の中にもう1人兵士が入ってきた。


その兵士は、先に入ってきた兵士と同じように片膝をついて、ストリング皇帝に拝謁はいえつした。


「何かあったのかね? あまり回りくどい言い方はせずに、要点だけべてくれると助かるが」


ストリング皇帝のいに、兵士は大声で返事をすると、言われた通り要点だけを伝えた。


「なに? ストリング城が空にかび上がっていっただと?」


皇帝の態度たいどは、変わらずに落ち着いたものではあったが、今までとはあきらかに反応が違っていた。


「それもアン·テネシーグレッチの仕業しわざかね?」


訊ねられた兵士は、城内から逃げ出した兵士による通信でしか状況がわからず、はっきりとしことはわからないと答えた。


それを聞いたストリング皇帝は、椅子から立ち上がると軍幕を出ていく。


周りにいた兵士たちが、何事なにごとかと皇帝の後を追った。


「各部隊の隊長たちへ伝えよ。私はこれから数体の機械兵を連れて本国へと戻る。ここはまかせるとな」


皇帝の言葉を聞いた兵士たちは、返事と同時に敬礼けいれい


すぐにストリング帝国の航空機――トレモロビクズビーの発進準備に取りかった。


「何が起きてもすぐに鎮圧ちんあつすればよい。制御コントロールできないことなど、この世にはないのだ」


それからストリング皇帝は、トレモロビクズビーに乗り込み、自分の城へと向かっていった。

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