157章

「たかが女1人が現れたくらいで、何をあわてる必要がある!」


バッカスは、クリアの登場とうじょうひるはじめていた機械兵オートマタや帝国兵を怒鳴どなりあげた。


そして、ぐさま指示を出し、邪魔者じゃまものであるクリアを始末しまつするよう、り上げた手を彼女へ向かって下ろす。


その合図で、一斉いっせいに飛びかかっていく機械兵オートマタの集団。


アンが身構みがまえると、クリアはそっと手をやり、彼女を下がらせると一歩前へと出た。


「……では、まいります!」


静かでいながら力強いつぶやき。


クリアは、両手ににぎっていた2本の日本刀を逆手さかてに持った。


向かってくる機械兵オートマタの集団へ、居合抜いあいぬきのかまえをとる。


「お願い、リトルたち……」


クリアが両目をつぶり、そう言葉をはっすると、左右の手に持たれた白い刀と黒い刀が、あやしく光をび始めた。


マナ、キャス、シックス、クロムのような力――自然をあやつる力とはまたちがう、不思議な波動はどうはなっている。


そして、飛びかかってきた機械兵オートマタに向けて2本の刀を抜刀ばっとうした。


その動きはゆったりとした優雅ゆうがなものだったが、クリアにおそいかかって来ていた機械兵オートマタたちは、はげしい金属音きんぞくおんと共にバラバラに切りきざまれた。


そのあまりに凄まじい居合抜き――。


そして、てきを切りいてもなお止まないするどい剣気に、カジノとイグニは背負せおっているジェットパックを起動きどうさせ、距離きょりを取る。


先ほどもそうだったが、クリアは一瞬いっしゅんにして周囲しゅういから敵をとおざけた。


「クリア……どうしてこんなところに?」


アンは、彼女がストリング帝国の近くにいることが信じられなかった。


ノピアから歯車の街――ホイールウェイでの、その後のことを聞いていただけに尚更なおさらだ。


「あなたの身に危険きけんせまっていると、リトルたちがさわぎ出しましてね」


クリアは、2本の刀をを見ながら話を続ける。


「でも、私の移動手段いどうしゅだんでは、あなたの危機ききに間に合いそうにないと思ったのですが、そんなことはなかったみたいですね」


アンはクリアの話を聞いて、リトルたちが騒ぎ出したのは、自分が暴走ぼうそうした影響えいきょうなのかと思っていた。


「クリア……実は……その……リトルたちが騒いだ理由なんだが……たぶん……私が……」


申し訳なさそうに言葉を伝えようとするアン。


クリアはそんな彼女に背を向ける。


もる話は後にして……アン、あなたは休んでいてください。そのケガでこれ以上戦うのは危険です」


クリアがそう言うと、彼女が握っていた2本の刀が変化していく。


そして、白と黒い毛をした2匹の犬の姿が現れた。


白いほうが小雪リトル·スノー、黒いほうが小鉄リトル·スティール――。


クリア·ベルサウンドにつかえる2匹の精霊せいれいだ。


犬の姿に戻ったリトルたちは、嬉しそうにアンにじゃれついた。


クリアは背中でそれを感じながら、クスッと上品に笑っている。


「この子らも、あなたに会えてよろこんでいますね。さあ、もういいでしょう? リトルたち」


笑みを浮かべたままのクリア。


その声を聞き、リトルたちは再びその姿を刀へと変化させ、彼女の両手に戻っていった。


――その一方。


バッカスは顔をゆがませていた。


彼はクリアの強さを間近まぢかで見て思い出していた。


「ノピア将軍の提出ていしゅつした報告書ほうこくしょに、着物の女のことが書いてあったな」


報告書通りだとすれば、目の前にいる女――クリア·ベルサウンドは自我じがのある合成種キメラや、マシーナリーウイルスの“適合者てきごうしゃ”と同じレベルの強さをほこる。


しかし、バッカスはまだまだ数では優勢ゆうせいなのだからと、冷静れいせいさを取り戻し、再び物量ぶつりょうの差で一気にめようとすると――。


「お待ちください、バッカス将軍」


下がって来ていたイグニが、バッカスの前で片膝かたひざをついた。


そして、それに合わせるかのようにカジノもかがむ。


「我ら2人にやらせてください」


イグニが顔をあげてそう言うと、カジノも同じように続く。


「……いいだろう。カジノ隊長、イグニ隊長にめいじる……アン·テネシーグレッチとあの着物の女2人の首を必ずここへと持ってこい!!!」


「ハッ!!!」


大声とともに飛び立っていくカジノとイグニ。


そして、2人はアンとクリアと対峙たいじした。


「アンは下がっていてと言ったでしょう」


「何を言っている。たがいいに守り合えば、半永久的はんえいきゅうてきに戦えるだろう」


クリアは、アンのその言葉にため息で返事をした。


だが、その表情は心なしか嬉しそうだ。


「まったく……相変わらず話を聞かない人ですね……でも、あなたらしいです……」


そして、アンとクリアは目の前にいる2人に、握っていた剣を向けた。

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