113章

急速に変わっていく筋肉と骨が、メキメキと鳴ったかと思うと、今度は金属同士がぶつかり合う音へ変化していく。


アンは自分が機械化していることに気がつかず、手足を拘束こうそくしていた粉を全身から放った電撃で消滅させた。


だが、機械化したのはまだ全身ではなかった。


グレイの心配していたマシーナリーウイルスの影響による浸食しんしょくではあったが、特異な形状の鎧甲冑よろいかっちゅうのような姿――ストリング帝国の機械兵オートマタに完全に変化したわけではなかった。


今のアンの姿は、酷く中途半端ちゅうとはんぱで、まるで人工皮膚ががれてしまったサイボーグのようだった。


「そんなんであたしに勝ったつもりかッ!!」


フルムーンの赤い爪が機械化し始めたアンを襲う。


切れない物を無理矢理断ち切る金切り音が鳴り響いた。


攻撃を受けたアンはデジタルな咆哮ほうこうをあげ、フルムーンへもの凄い速度で突進していく。


いつも右腕からはなたれていた電撃が、中途半端に機械化した彼女の全身からほとばしる。


そして、フルムーンの体をとらえると、それを一気に浴びせた。


「ぎゃぁぁぁッ!!!」


フルムーンの体が電撃の熱によって焼けげていく。


生きた肉を焼いた匂いが、周囲をめ尽くしていった。


フルムーンがダメージを受けたことで、クリアとグレイを捕えていた粉による拘束がかれた。


だが、2人とも安堵あんどとは程遠い表情で立ち尽くしている。


クリアが小雪リトル·スノー小鉄リトル·スティールを連れて、グレイの傍へとけ寄った。


「グレイッ!! あの姿は何なのですか!? アンは一体ッ!?」


クリアの叫ぶようないに、グレイは説明を始める。


あれはマシーナリーウイルスによる影響だと――。


ストリング帝国の科学者たちが開発した、人体を侵食する細菌。


このウイルスは、体内で一定の濃度まで上がると成長し、宿主しゅくしゅの身体を機械化する。


機械化したものは、人体を超えた力と速度で動けるようになるが、宿主は自我を失い、ストリング帝国の完全なる機械人形へと変わってしまう。


アンは右腕だけの浸食で済んでいたが、きっと何かのトリガーを引いてしまったのではないかと、グレイは言った。


「マシーナリーウイルスは、感情の高ぶりに反応する。特に痛みや憎しみなど感情の激しい揺れがスイッチになると……」


「何とかならないのですか!? あれはどうみてもコントロールできていない……このままじゃアンが機械になってしまいます!!!」


クリアとグレイが話している目の前で、フルムーンをがっしりと掴まえているアンがさらに電撃を浴びせていく。


アンの体が電撃が放つたびに、フルムーンの叫び声が大きくなる。


「これは……どうなっている!?」


そこへノピアとイバニーズが現れた。


2人はフルムーンを圧倒あっとうしているアンの姿を見て驚愕きょうがくしていた。


「おいおい、あのマシーンガールはマシーナリーウイルスの適合者てきごうしゃじゃなかったのかよッ!?」


叫ぶイバニーズ。


ノピアは思う。


……あの女も所詮しょせんは人の子だったというところか。


しかし、あれだけ機械兵オートマタ化が進んでも電撃でショートしないところを見ると、まだまだあの女が他の者とは違うということがわかる。


その謎を解明して、必ず私のものに――。


「おい、イバ。あの女……アン·テネシーグレッチを確保かくほするぞ」


ノピアの言葉を聞いたイバニーズは、顔をゆがめた。


その顔は、機械兵オートマタ化し始めているアンに近づくのが危険なことだと、言いたそうにしている。


「やりたくないのならいい。私ひとりでもやる」


ノピアはピックアップ·ブレードを握り、白い光のやいばでアンへと向かっていった。


それに気がついたアンは、焦げ臭くなっているフルムーンを捨てて、ノピアと対峙たいじする。


「やはりマシーナリーウイルスは制御コントロールできなかったようだな。だが安心しろ。私がお前を止めてやるぞ、アン·テネシーグレッチッ!!!」


アンに向かって叫ぶノピアに対し、機械兵オートマタ化し始めていた彼女はデジタルな咆哮をあげた。

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