マシーナリーズ・メモリー~機械化する少女

コラム

プロローグ

少女の目の前で、轟音ごうおん閃光せんこうほとばしる。


聞き慣れ、見慣れているはずのものだったが、少女はふるえが止まらなかった。


銃声、そして放たれた電磁波。


少女の父親が、古い突撃銃を思わせる形状けいじょうをしたインストガンを乱射らんしゃしている。


広大な砂漠さばくの中を、父に手を引かれ走る少女。


電磁波が当たり、身体の一部が吹き飛んだ怪物の大軍が、咆哮ほうこうをあげながらすさまじい勢いで追ってくる。


怪物は、いずれも人間と同じような姿をしていた。


だが、その手足は異常に大きかったり、長かったり。


そして、その瞳からは知性の欠片かけらも感じさせない。


すでに、他の仲間は全滅していた。


今追って来ている怪物に噛みつかれ、力任せに引き裂かれて、無残に殺されていったのだ。


「お母さん……」


少女は走りながらも、後ろを見ていた。


無理もない。


殺された仲間の中に彼女の母親もいたのだ。


少女の妹はすでバラバラにされたのか、その姿は見えなかった。


力強く腕を引かれた少女は、砂に足を取られてつまづいてしまう。


追いついた怪物は、よだれき散らし、少女の顔がベタベタになる。


父親が手を引いて立たせようとしたが、少女は腰を抜かしてしまい、動けないでいた。


怪物がおののように膨張ぼうちょうした腕を振り下ろす。


次の瞬間――。


少女は血塗ちまみれになった。


正確にいえば、彼女をかばった父親の血を頭からびたのだ。


首がね飛ばされた父親を見て、少女の思考が停止する。


動かない少女の頭上に、再び腕が落とされそうになったとき――。


銃声と共に、怪物の頭が弾け飛んだ。


他にいた怪物の大軍も、すべて頭が吹き飛ばされて倒れている。


少女は、何も考えずにただそれを見ていた。


「大丈夫かい?」


そこにはミルキーハットを被った男が立っていた。


大きな目をギョロつかせ、手に持ったパンコア・ジャックハンマーを下ろすと、着ていたロングコートを少女に羽織らせた。


「もう平気だよ、こんなときでも泣かないなんて、君は強いね」


ハットを被った男は少女に語りかけた。


それから、放心状態の少女を抱きしめて、言葉を続ける。


「君の名前を教えてもらえると嬉しいな」


優しく、できる限り穏やかに――。


今彼にできることは、それだけだった。


抱きしめられた少女はポツリと返す。


「私は、アン……アン・テネシーグレッチ……」


少女と顔を見合わせ、笑みを浮かべるハットを被った男。


だが少女の目は、彼を見ていなかった。


その目は激しい憎悪にちていて、転がっている死体たちを見ている。


……許さない、絶対に……絶対にあいつらを皆殺しにしてやる。


優しく抱きしめられた少女、そのとき殺された両親の亡骸なきがらちかった。

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