第14話 イレイグ・ソーラル王

「小ゴーレムが、あの子供を救ったのは、あれか、俺たちのあの日の事が影響しているのか?」

まだ、魔物たちの襲撃の爪痕が、此処彼処にある王都をコロン車に乗って城へ向かっている。


 その車中でアーノルドが珍しく、真面目に聞いて来た。


「うん、子供の危険を察知したら、何をおいても救助するように上位命令として登録してある」

と横にいるシェリーに顔を向けながら答えた。


「へー、じゃあ、あの子供ばばぁーズはどうなんだ? 、なあシェリー?」

「えっ、あの聖霊師様たちは子供ではありませんよ、見ればわかるでしょう」

「えー、あるじ、どういう仕組みになっているだ?」

「聖素の量と、その器の大きさかな。子供は聖素が多く作られるけど、器がまだ小さいから漏れる量が多い。大人になると聖素の作成量が減って、器が大きくなるから聖素が漏れる量は少なくなる。作る量と受け止める器の大きさは種族によって違うのだけど、大体どの種族も漏れる量は子供は多い、大人は少ないとなるんだ。小ゴーレムやシェリーは漏れる量を感じることが出来るだよ」


 アーノルドなど武に長じた者は殺気、闘気など気の流れを感じる事が出来るらしい。僕たち魔法使いは結界を張った時、それに触れた者の聖素、魔素の多い少ないは感じる事ができるが、気の流れは感じた事はない。シェリーは聖素、魔素、気を感じる事が出来る。でも万能じゃない。武術家も魔法使いも、上位者は、自分の気や魔素聖素を巧みに隠すからだ。僕たち三人もそれなりに隠しているけど、双子の聖霊師には丸見えだった様だ。恐るべき眼力だ。


 シェリーがアーノルドの方に顔を向けて、

「私はアーノルドの器は、すごく小さいじゃないかって思う時がありますね」


 また、始まったと思ったら、


「おうよ、俺は若々しいからな」

と都合よく、誤解してくれた。シェリーはプイとよそに顔を向けた。


「なあ、あるじ、あの二人と喋っていると調子狂わねぇか。風貌と声は少女、しゃべり方はおばば、そして、いつもステレオだぜ」

「そうだな、師匠が二人いるように思う」

あるじ、それはいくら何でもねぇぜ。禿げが女装して二人いるなんて、考えただけでも気も悪い」


 そんな話を聞いていた、シェリーが


「失礼ですよ。ご主人様も……もう」


 などと話しているところで、城に着いた。昨日、王女を救ったお礼だとかで招待されたのだ。固辞したが、聖霊師たちが話したいこともあるというので、仕方なくやって来た。もう、王宮やら王室やらとは関わりたくないのが本音である。


 謁見の間の前の扉の前で、


「二人は待っててくれる?」

とアーノルドとシェリーに言ったが、控えている騎士が、

「いえ、皆様全員で御目通りとなっております。どうぞ、お入りください」


「じゃあ、剣を」

とアーノルドがロングソードと腰の短剣を渡そうとした。騎士として最低限のマナーはあるらしい。


「いえ、帯剣のままで構わないとのことです」


 僕たちを相当信用したのか、よほど剛毅なのか。


 扉が開き、中に入ると、大きな机の上に地図らしきものが広げてあある。

そこで、数人の騎士たちが何やら打ち合わせていた。そこに美人の女騎士が一人いる。

 城は、華美な飾りを排した、素朴だが力強い感じである。謁見の間は高い天井に、ミソルバ国の紋章である二頭の獅子の旗が幾つも飾られている。光が入り、とても明るい。

 

 僕たちの到着の言上がされて、一斉にこちらを向く。女騎士とがっしりとした体つきの騎士がこちらにやって来た。多分、王だと思うので、僕たちは片膝をつき礼を執っていたら、騎士と女騎士が手を取って、起こしてくれて、

「ダベンポート殿、それにその従者お二人殿、このたびは、エレーナをお救いくださり有難うございます。エレーナの父 イレイグ・ソーラルです。これは我が妻カッシーナです」


「カッシーナです。エレーナのことは本当にありがとうございました。ああ、今緊急時につき、この様な身なりでお許しください」

「妻は男まさりでしてな。平時でもしょっちゅう、この身なりじゃ」

「まあ、イレイグ、初対面のお客様の前で」

と笑っている。


 王族とは思えない気さくさだ。それに王は領土名ミソルバを言わなかった。僕をそれなりに気にかけているのか、聖霊師が助言したのかな。


「こちらこそ拝謁の栄を賜り恐悦至極にございます。たまたま通りかかったところ、王女様が御難にあっておられました。微力ながら助力させてもらったまでのことです」

「ダベンポート殿、堅っ苦しいことはなしにしよう。国と言っても、吹けば飛ぶ様な小国だ。俺なんか盗賊に毛が生えた様なものだ。なあ、カバレッジ殿」


 流石のアーノルドも突然降られて、あたふたするかと思いきや、


「いやー、王様がそう言ってもらえるなら、肩の荷が降りるってもんだ」

変な所に肝の座った奴である。だいたい、肩の荷なんてないだろう。


 ―――エルメルシアの滅亡以前は、統治者は、王都や都市部のみ魔物対策を行い、他の小規模な町や村はそれぞれが対策を行うことが通例であった。しかし、エルメルシアの民衆宣言およびローデシア帝の受託により、魔物対策は統治者が担うべきとし、それを全うできない場合は民衆が統治者を替える権利を有するという社会通念が一般化した。各国は対策のための兵の増員や魔物狩猟者の雇用などを行い国全体の魔物対策を行う必要に迫られた。そのため小国の財政は逼迫し、たちまち財政難となっていた。

 エルメルシアの滅亡から十三年が経ち、多くの小国は経営が成り立たなくなった。それらの国は革命の末、献上や統治者自らが献上するなどし、エルメルシアを含めて九つの国がローデシア帝国に併呑されたのである。ここミソルバ王国は、交易都市として立地条件が良く、国王の才覚もあり繁栄している珍しい国である。しかし、このような繁栄した小国に対して、特に魔物の襲撃が繰り返し起こるなど、不審な点が多いことも指摘されていた―――


 王は娘を救ってくれた御礼をしたいと言ってきたが丁重に断った。たまたま通りかかって、助けただけだし、こっちはアーノルドがバッサバッサと斬り殺した魔物の素材をかなりの入手できた。しかし、滞在の間、迎賓館に泊まることは断れなかった。


 そのような中、

「ダベンポート殿、娘がポコ? と言う小さいゴーレムを大層気に入っている。あれはダベンポート殿のものであろうか? できれば譲って欲しいのだが……」

と言ってきた。


’これは純粋な商談だ’


 僕は名刺を出しながら、

「そうです。実は私、ダベンポート雑貨という薬や雑貨の店をやってまして、あれはそこで作ったものです。雑用のほか、護衛もこなせます。防衛のためにフレイムボールも発射できますよ」

と腹の探り合いの商談が始まった。

 シェリーは横で記録、在庫確認、生産量予測、原価計算に損益計算などをしてくれていた。アーノルドは、謁見の間の壁際にある椅子に座って、背伸びしていた。

 

 ついにアルカディア証文を取り交わし契約した。ミソルバ王は自分を盗賊と言っていたが、腹黒商人の方がぴったりだ。

 お茶の後、王と王妃は王都内の見回りに行った。僕たちは双子の聖霊師に連れらて、ある部屋に行くところである。


「ミソルバ王と話したのか」「のか」

「ええ、ちょっとした商談をさせてもらいました」

「ふむ、彼奴は武人としても中々だが、商才の方が優っておる。お主も気をつけることじゃ」「じゃ」


 もっと早く言って欲しいですけど。

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