第27話 四人のギルド
メイさんがパンパン、と軽く手を叩いて僕たちの注目を集める。
「はーい! さてさて、それじゃあメンバーも揃ったところで、そろそろギルド設立の会を始めたいのだけど、その前にユウキくん!」
「は、はい」
「改めて意志を聞くね。メイさんたちのギルドに入るということは、これからメイさんたちと毎日一緒にLROで生きていくということだよ。ユウキくんはそれを受け入れてくれるのかな?」
「毎日一緒に……」
メイさんに言われて、改めて考えた。
ひかりたちと一緒に、このギルドで過ごしていく未来のこと。
本当は……ちょっと怖い。
僕には、LUKチートという人には言えない隠し事があるからだ。
ギルドに入ると、それを知られる可能性が高くなることは間違いない。もしそれを知られてしまえば、ひかりに、メイさんに、ナナミさんにも嫌われてしまうかもしれない。
もちろん、メイさんやナナミさんに嫌われるのも怖いけど、一番は――
「――ユウキくんっ」
隣でひかりが笑ってくれた。
僕の手を握って。
まるで、「大丈夫だよ」と。そう安心させてくれるように。
「ひかり……」
そんなひかりの顔を見ていたら、自然と心が落ち着いてきた。
そうだ。僕は決めた。
今まではずっとソロでやってきたけど、でも、LROを思いきり楽しむためには、そのままじゃダメだ。ちゃんと、人と向き合っていかなきゃいけない。いつまでも逃げていたら、この《リンクレイシア》の世界にいられるせっかくの3年間がもったない。
それに――誰かと一緒にいたほうが絶対に楽しい!
ひかりと出会って、僕はそんなMMORPGでは当たり前のことを思い出すことが出来た。
だから、うなずく。
「――はい。よろしくお願いします!」
メイさんも、笑顔でうなずき返してくれた。
「うんっ。それじゃあ私、《メイビィ・フィーリス》がギルドマスターとなり、《ひかり》、《ナナミ》、そして《ユウキ》の四人でギルドを設立します。みんな、この用紙に指輪を当ててくれる?」
そこでメイさんが取り出したのは、一枚の紙。
それは《ギルドノート》というアイテムで、ギルド設立の申請用紙だった。
確か、学園クエストでのLPが一定まで溜まると、学園側からプレゼントが贈られるんだけど、その中の一つでこのアイテムが選べたはずだ。僕は選ばなかったけども。
僕たちはそんな用紙に《リンク・リング》をそっと押し当て、それだけで自動的に本人確認が終了。後は視界に最後の承諾画面が出てきて、[yes]を選択して完了だ。あとはこの用紙を生徒会に提出して終わりらしい。
「フフ……やったやった。ウフフフフフフフ!」
そこで、メイさんが用紙を手に突然笑い始めた。
「ようやく、ようやくメイさんの可愛いギルドが設立出来るよ……これでギルド所属の生徒にしか入れないダンジョンにも行けるね! 《アルテミスの聖服》も《聖姫のティアラ》も可愛いレア装備をたくさん取りにいけるよ~~~♪ ウフフフフ! 手に入ったらひかりにつけてもらわなきゃ~♥ スクショいっぱい撮るよ~♥」
先ほどまで淑やかで落ち着いていたメイさんが、用紙を掲げてくるくる回り出しその目を♥マークにして恍惚な表情を浮かべていた。
目を点にする僕の隣でひかりが言った。
「ふふ。メイちゃんは可愛い装備を集めるのが趣味なんです。特にお気に入りなのは、今着けているウサギさんの耳みたいですよ。そのために、狩りがしやすい《メイジ》を選んだって言ってました」
「え? そ、そうなの?」
驚く僕に、ナナミさんがため息をついて話す。
「騙されんなよカレシ。メイのやつ、一見優しくて綺麗なお嬢様っぽいだろ。けどこう見えてやべーやつなんだよ。可愛い物を集めて観賞するためなら何でもするし。ひかりとあたしだって、可愛いからそばに置いて愛でたいたまにイチャイチャしたいしチューもしたいとかいう理由だけで、ほとんど強制的にこのギルドに誘われたんだからな」
「ぶっ! そ、そうなんですか!?」
「普段の常識人ぶった優等生は泥の仮面だよ。テンションが上がるとぶっ壊れるぞ。今みたいにな」
「はぁ~早くティアラを手に入れて眺めたいなぁ~! ひかりとナナミを可愛く可愛~く飾り着けてスクショをたくさん撮って愛でなきゃ!
――うぅん待って! 今はユウキくんもいるんだから、彼にティアラを着けるのもありかなぁ? ユウキくんは男の子にしては可愛らしい外見だし、LROなら女装も可能だし、きっと似合うよね……ウフフフフ……!」
ギラッ、とメイさんが僕を見てその目を光らす。
僕は思わず「ひぃっ」と後ずさりしてひかりの後ろに隠れてしまった。ひかりが「えっえっ」と慌て出す。
「ユ~ウ~キ~く~ん? どうして隠れるの~? メイさんそんなに怖いかなぁ? さっきは、あ~んなにメイさんをなめ回すように見つめてくれたのに~♥」
「ああああごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
「メ、メイちゃん。ユウキくんをこわがらせちゃダメですよ?」
「はぁ……ああめんどくせー! 落ち着けメイッ!」
「ウフフフふぎゅっ――」
ナナミさんが振り回したリュックでメイさんの顔面を容赦なく叩く。
するとメイさんは目をパチパチさせて、
「あ、ああ~ごめんごめんっ! ついテンションが上がっちゃった♥ だって、こんなに可愛いメンバーたちとギルドが作れるなんて、夢みたいだったからね」
どうやら正気に戻ったらしいメイさんに、ナナミさんが一段と深いため息をつく。
「ごめんよユウキくん。別に女装させたりはしないから出ておいで~。ね~?」
「もう大丈夫ですよ、ユウキくん」
「は、はい……あ、ごめんひかりっ」
そこでずっとひかりの後ろに隠れていた情けない自分を自覚し、慌てて前に出る。
メイさんがこほん、と一拍おいて言った。
「さて、それじゃあこの用紙を生徒会へ提出しに行こうか。別にメイさん一人でも問題ないんだけど、せっかくだから思い出にね。三人もついてきてくれるかな?」
僕たちはそれぞれに顔を見合わせ、そしてほぼ同時にうなずきあった。
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