どろろんサウンドサイキッカー

「グラウンドへ到着だっ! さあ相手をして差し上げましょうぞ!」

 アマネは腰に手を当て、シュバッと頭上にある月に人差し指を突き立てた。その背後にぜえぜえと息を切らした野沢がやってくる。

「お前のスタミナなんなの……」

「天狗ですからっ!」

「……あーはいはい。そうだったな。じゃあ、お前の力でぱっぱと目の前の幽霊たちをやっつけてくれ」

 目の前では、各々ヒーローのようなポーズを決めている数百人の幽霊たちが対峙していた。その中央にはぜえぜえと息を切らした人間のサッカー部員がいる。


「無理です!」

 野沢は耳を疑った。

「……今なんて?」

「今の私には無理です! 武器ないんで! さすがの私でも、この人数にのしかかられたら身動き取れません。もしアッキーにのしかかってきたら、最悪の場合、身体がぐちゃぐちゃに潰れるかも」

「はあ!? じゃあどうすんだよ! あいつら俺らのこと取って喰う気満々だぞ! 目が血走ってるよ!」

 数百人の幽霊達は不敵な笑みを浮かべて、マッスルポーズを決めていた。口元からはヨダレのような何かを垂らしている。

 夜闇を差す月光が、彼らからほどばしる白い湯気にも似たオ―ラを照らしていた。

 アマネが野沢の方角に指をさす。

 ……正確には野沢の後方。さらに正確に言えば背中。

「あなたのその大切なモノが、あいつらを倒すカギです」


  野沢の背中にはずっと、ギターケースが乗っていた。彼は何時なんどきでも、ギターケースを身の周りに置いていた。

「私が貴方を仲間に誘った理由そのニです」

「はあ? 言っている意味が……」

 その途端、数百人のサッカー部員たちが彼らめがけて迫ってきた。

「話は後です! さあ、早くギターを構えてください」

「ああもうなんだってんだ! こいつに傷をつけたらただじゃおかねえかんな!」

 野沢はグラウンドの地面にケースを置くと、中からギターを取り出した。そして即座にギターのベルトを肩にかける。

「これで良いのかよ!」

「上出来です!」

 いつのまにか赤紫色の光に包まれているアマネの両手が、野沢のギターに触れた。

「うおおお! なんじゃこりゃ」

 野沢のギターが青白く光り輝き始める!

 さらにアマネが野沢の肩に手を触れる。すると野沢自身も赤紫色の光を纏った。


「ギターに私の妖力をありったけ注ぎ込みました。さあ、存分に好きな曲を掻き鳴らしてください!」

「もうどうにでもなれだ!」

 野沢がギターを一心不乱に掻き鳴らす!

 すると強烈な突風が巻き起こった。台風に巻き上げられる牛の如く、幽霊たちが為す術もなく吹き飛んでいく……!

 突風はグラウンドの砂と混ざり合い、巨大な砂塵となって幽霊を襲った。

 やがて野沢の演奏が終わり、静寂が訪れる。グラウンドには地面に突っ伏した幽霊たちの姿。……そして大量のまんじゅうを胸に抱いている一人の少年も、その中でうつ伏せに突っ伏していた。

 その後、二人はまだ意識のあった幽霊の一人に話しを聞いて見ることにした。興奮も収まり、落ち着いているようだった。すると、意外な事実が判明した。

 どうやら彼らは全員この学校でサッカー部だった卒業生らしく、同窓会を開いていたようだった。ちなみに移動距離に制限があるらしく、友人町で死んだか、墓のあるヤツ限定らしい。事の発端を詳しく聞いてみると、学校裏に作られた墓地のお供え物が毎晩何者かに盗まれていたようだ。


 で、同窓会をしていたら、偶然にも墓荒らしの犯行が彼らの目前で行われたので、取っちめてやろうとメンバー総出で追いかけ回した。そしたら途中で野沢達と出くわしたため、墓荒らしの仲間かと思い、襲いかかったというのが事の真相であった。正月ムードも醒めやらぬこんな時期に、肝試しする輩など滅多にいない。野沢達が仲間だと思われるのも、当然である。

 二人は朝まで墓荒らしの少年を説教すると息巻くサッカー部員達に、未だに地面で伸びている彼を預けて、その場を後にした。

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