日比谷大河の逡巡

新世界へ

 期末テストの結果が返ってきた。

 

 国語 96点

 数学 100点

 英語 98点

 理科 95点

 社会 100点       

        五教科総合得点 491点


 つまらない点数だ。

 僕は成績表を見て思う。


      ─あなたの成績─      

        

    一年生・一学期 498点     

    一年生・二学期 489点

    一年生・三学期 492点

    二年生・一学期 484点

    二年生・二学期 491点


        * * *    


「ねえ、日比谷くんテストどうだった?」

 

 図書館に並べられた椅子の片隅。

 放課後、ボクらは座っていた。


 「まあまあかな」

 あまり、ボクは人にテストの結果を教えたくない。例え相手が椎名でも。

 

 「まあまあって何点だよー?」

 なぜなら、教えたら引くからだ。

 一年の時にクラスの奴に見せたら、

 「うわぁ、まじか。がり勉じゃん」

 と、ボクは勝手にがり勉の称号を貰った。


 だけど、基本的にボクは勉強をしない。

 それでも点が取れるのは、授業中、ボクには誰も話す相手がおらず、先生の授業を聞く他にすることがないからだ。

 

 ボクは不承不承、椎名に成績表を見せる。

 

 「えー凄っ。天才じゃん日比谷くん」

 ほら、ボクは成績表を見せただけなのに、何かしらの称号を貰う。


 頭いいね、秀英だね、がり勉じゃん、天才じゃん............などなど。


 正直そんな称号一つもいらない。


 秀英だから天才だからって何になるんだ?


 ボクはいつもそう思っていた。

 でも、椎名に褒められたのは素直に嬉しかった。

 

 「椎名はどうだったの?」

 すると、椎名はニヤリとして、懐から成績表を取り出し、ボクに見せた。

 

 国語 91点

 数学 23点

 英語 15点

 理科 42点

 社会 51点

        五教科総合得点 222点


      ─あなたの成績─   


    一年生・一学期 189点

    一年生・二学期 215点

    一年生・三学期 256点

    二年生・一学期 231点

    二年生・二学期 222点


 ............ひどいな。

 ていうかなんで笑ったんだ?


 「すごくない? 国語九十一点だよ!」


 「国語は凄いけど、英語は.........」


 「英語は訳者がいるからどうでもいいの」

 

 なるほど、椎名は国語以外の点数はどうでもいいのだ。英語が出来なくても、数学が出来なくても、物語を読む力だけあればいいと思っているのだ。


 「よかったね」

 とだけボクは言って、本を開く。


 本を読むことは、どこか遠くに行くことと同義だとボクは思う。旅行誌を見て、行った気になるのと同じように。

 

   だからボクは今から出かける。

   ボクがまだ知らない、新世界に。

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