大沢の空振り
【 2回裏 】
北見の投球練習は圧巻だった。
まさに一球入魂。
一球一球、感触を確認するように投げている。
受ける加治川の集中力も凄い。
投球練習でこのオーラ。
やはり一流はモノが違う。
そう思わざるを得ない光景。
スーパービジョン。
初回、水野に投げたパームの超スロー映像が映し出されていた。
無回転でリリースされたボールが途中から僅かにスピンを始める。
100キロに満たないスローボールが決して山なりに見えない。
打者の目からするとこれが加速したように錯覚するのだろう。
そしてその僅かな回転が打者の手元で力尽き再び無回転になる。
だから揺れて ……消える。
スロー映像で見ると落ちるというよりも、キャッチャーミットに届くはずの電動式ボールの電池が突然切れた ……そんな感じに見えた。
今シーズン被安打0、調子が良ければ外野にも飛ばせないらしい。
確かにこれ程、反発係数の低いボールはないだろう。
スローボールなのに微妙に差し込まれて、その上予想を遥かに超える大きな落差。
もし当たったとしても、ボールの上っ面を掠めた打球が内野に転がるのが関の山かも知れない。
あり得ない魔球。
スロー映像にスタンドが静まる。
『2回の裏、ホワイトベアーズの攻撃。4番キャッチャー大沢』
ドームが騒つく。
気色の悪い空気。
大沢が淡々と右打席に入り ……
そしてゆっくりと構えた。
・・・
大沢の構え。
“ 違う ”
って感じるのは ……俺だけか ?
初球。
161キロ表示。
低めギリギリ。
大沢はピクリともしない。
「ストライクッ !」
2球目。
162キロ。
内角高め …………見逃した。
「ストライクツー ! 」
もう追い込まれた。
大沢は微動だにしない。
3球目
内角高めのカットボール。
これも見逃した。
155キロ。
「ボール」
1ボール2ストライク。
4球目。
95キロ。
パーム ……
大沢が動いた。
“ ぶぉんっ ! ”
・・・うぉっ
「ストラックアウトッ !」
・・・
大沢の空振りにドームが一瞬響めき ……
すぐに失笑に変わりスタンドに広がった。
やはりだ。
横をみると優深が目を丸くしていた。
・・・だろ ?
これで4者連続三振。
北見は大沢のスイングを見て、不敵な笑みを浮かべていた。
ふた月前も優深とここに来た。
その時とぜんぜん違う。
この威圧感。
これは俺がよく知っている ……
大沢秋時だ。
北見は5番中江、6番トーレスに対してパームもストレートも投げなかった。
しかし ……
連続三振。
これで6者連続。
「はははっ ……凄っ」
・・・
また睨まれた。
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