自分のカンと贖罪意識に従い …

  


思い出した。



間違いない。



巻本は ……あの時のあいつだ。




何度も同じ事を呟きながら、月極駐車場まで一気に走った。

フォレスターに乗り込んで、すぐに駐車場を出た。


行き先は神明町2丁目10。

千葉の住むタワーマンション。


何としても、一刻も早くヤツの部屋へ行かなければ ……

そこに国仲美摘さんがいる。

あのクソ野郎に監禁されている。




早速、ナビが着信音を鳴らした。



・・・ジョーか



20回以上コールが続いたが無視した。

音が止んだ途端、またすぐに鳴る。



・・・今度は島だ



悪いが出られない。


“ 俺の推理 ” を ……


二人には、是非とも伝えたい。


だが ……


通話やメールは傍受される可能性がある。

俺とのやり取りが、逆に二人を窮地に追い込む事だってあり得る。

敵は何でも可能な殿様なのだ。



さっきから警電も鳴り続けていた。

どうせ袖原か、もしかしたら管理官か ?


突然、捜査本部を抜け出したんだ。

みんな何事だ、と思うだろう。

だが、所詮狂犬。

大して驚きもしないだろう。


職務上の義務違反。

懲戒停職か ? 降任か ? ……免職か ?

どうでもいい。


家族や仲間たちの信頼を裏切って千葉正利を襲おうとした。

つい、昨日の事だ。


その愚かさに比べれば、こっちの方が断然マシだ。


ヒロにも大沢にも ……祥華や優深にだって …

少なくとも俺自身は恥じるものではない。




巻本が俺の存在に気づいた。


蓮見も思い出した。



“ 月見酒事件 ” の狂犬を。



おそらく俺はすぐに捜査本部から外される。

外されたら待機組だ。

身動き取れなくなる。


俺の妄想なのか ?

早とちりなのか ?

もしかしたら、そうかも知れない。



だが ……


被害者の絶望を思うと ……

俺はもう、自分のカンと贖罪意識に従い ……

突っ走るしかない。



奴らは事件を解決する為に、帳場を立てたのではない。


犯人を隠匿する為に南洋に来たのだ。



巻本はずっとそれをして来たのであろう。


15年以上も前から ……


蓮見健一郎を守るため、千葉洋平の犯罪を隠蔽し続けて来たのだ。




大学3年の冬。

学校の駐車場で会ったあの男。


あの時 ……


俺は森川舞さんの自死の真相を調べる祥華のボディガードをしていた。

それを舞さんの父親の顧問弁護士の秘書を名乗る男にたしなめられた。


“ 親が断腸の思いで受け入れた事実を、あなた方にほじくり返す権利はありません ”


俺はあっさりと嘘の名刺に騙された。


確か …… “ 久居 ” と名乗った。


あの男が巻本だ。

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